観てきました、「あの夜であえたら」。 


 いや~面白かった!

 佐久間さんがラジオで「観客も参加する実験的な舞台」と言っていたけど、ただ拍手やペンライトを振って参加するだけじゃなくて、観客自体が脚本に組み込まれているとは。・・舞台はあまり見ないから他にないのかは分からないけど。

 この作品の第一幕はステージ上でイベントのリハーサルが進んでいき、ステージ裏のドタバタが映像を通して観客に伝えられる。ステージ裏どころか、ニッポン放送の社屋や東京国際フォーラムのロビーも舞台にしてしまう。少し怖いのは、舞台裏の映像は事前に撮っておいてもいいだろうに、生で演じてしまうという狂気だ。それはまぁ、前作同様なのだけど、階段を走り、観客席を走り、ロビーを走る植村(高橋ひかる)や相原(工藤遥)は少しかわいそうなくらいだった。まぁでも、間近で見た高橋ひかる、可愛かったなぁ。

 そうした舞台裏のドタバタを、本当ならリハーサルにいないはずの観客が見ている。そして第二幕では、観客が物語をつなぐ装置となっているのだ。これは凄い作品ではないか。物語をつなぐ装置のもうひとつ、藤尾涼太(千葉雄大)のなんと優しいことか。

 第一幕はリハーサルなのだから、第二幕は本番だ。観客はリハーサルで見たものをもう一度見なければならない。さぁどうするのかと思ったら、まぁ、よく練られた脚本だ。すごいね、小御門さん。少し調べたら、脱出ゲームのシナリオも書いていたらしい。なるほどねぇ。

 笑いどころも多かった。やはり野々宮編集局長(三四郎相田)は出てくるだけで笑いが起きる。そして、佐久間さんの一言で爆笑だ。小宮も面白かった。相田が、小宮が、佐久間さんが、出てくるだけで笑いが起きる。それは観客もラジオが好き、「あの夜」が好きという狂気に満ちているからだ。前作を見てない人なんて、一人もいないんだから、絶対。そういう観客を迎え撃つわけだから、制作側もガチ生なのだろう。


 「あの夜を覚えてる」の舞台になった架空のラジオ、藤尾涼太のオールナイトニッポン。そしてあの夜ののち、ディレクターの植村は「綾川千歳のオールナイトニッポンN」のディレクターを努めていた。番組1周年のイベントを前に、綾川は番組の中で卒業を告げていた。イベントがイクラちゃん(リスナー)と触れ合う最後の機会。植村は綾川の本音をリスナーへ伝えるために、イベントの最後に、綾川のフリートークを入れることを提案するがーー



 「あの夜」には、普通の社会人のあるあるがふんだんに盛り込まれているところがいい。

 前作もその面が強かったが、今作はラジオ制作側、それも、トップの制作局長野々宮から、中間管理職の堂島、現場責任者の上村、新人の西と、たいていの人が当てはまるポジションの人たちがいる。そこに、イベント制作側のプロデューサー都築、アシスタントの相原。舞台監督の古家に、パーソナリティの綾川、と藤尾。ラジオ番組側と、イベント制作側という関係がある。これらの関係が描く場面場面は「その気持ち、よく分かるなぁ」という共感にあふれていた。

 ミスばかりする新人の子の気持ち、先輩に嫌な仕事を押し付けられるときの気持ちもわかるし、悪気なく嫌な仕事を押し付けたり、まぁ内心助かるわぁとは思っているのだけど、ミスを報告する部下の気持ち、部下からミスの報告を受ける上司の気持ち、どれもよく分かる。いや、堂島が野々宮に悪いことを報告するときはだいぶ含まれた感情を感じたのでちょっと違うかとは思うけど、相原が後輩の西に「あんた今日何回謝ってるの」といいながら自分も後輩のために謝るなんて、本当にいいと思う。

 そして野々宮の「脛に傷」の説教。あの言葉にみんな勇気をもらったんじゃないかな。でもまぁ、じっさい、あれに近いことはよく言うよね。「脛に傷」の説教を、アキレス腱を切って治療中の相田に言わせるっていうのがいいね。表か裏かって話だからね。


 その「共感」の頂点がわたしとしては「ばかまじめ」だった。自分でも気持ち悪いと思うけど、藤尾が歌い出したときにはちょっと震えちゃった。あの曲大好きなんだよなぁ。

 「やりたくないことやったって嫌々早起きしたってその分素敵な何かが訪れるとかそんなわけでもないのにさ」

 「辛いきついもいつかは笑い話にできると信じてるんだ」

 「1ヶ月くらいなんにも考えずダラダラしていたいなゆっくりやすんであそんで眠っていたいなっておもう日もあるけれど」

 ほんと、40過ぎたオジサンも同じ葛藤を毎朝感じながらやってるんだから。人生3本の指に入るくらい好きな曲かもしれない。

 

 

 そんな共感に溢れた作品だったのだけど、今回は植村の役どころは難しかったと思う。ばかまじめの後は、綾川千歳(井上音生)がかわいそうなくらいだった。植村は開演前に読んでいたパンフレットでも、高橋ひかるが「殴ってやりたい」というくらいブッ飛んでた、ラジオの化身だったからなぁ。作品を回すうえで仕方なかったんだけども、難しい役どころをよくこなしたと思う。

 工藤遥も素晴らしかった、かっこよかったね。前作ですごく演技が好きだったんだけど、藤尾のマネージャー小園役の鳴海唯、今作も素晴らしかったし、シンデレラでの怪演では会場を笑わせてくれた。あれは小園の役がうまく観客に浸透していたからだとおもう。

 綾川のマネージャーの高野ゆらこさんの存在感は圧巻だった。

 女性陣ばかりではなく、作家の神田役の入江甚儀の二役の落差、コミカルな演技。舞台監督古家役の小松利昌さんは開演前から演技を始めていて、一番セリフが多かったんじゃない?小松さんが観客の立ち位置を気づかせてくれる重要な役だったね。

 ミキサー一ノ瀬役の山川ありそさんはずっと観客席に座ってるし、藤尾役の千葉雄大は特殊な役回りを、あれはほとんど素なんじゃないの?自然体で楽しんでいるように見えた。それから、千葉雄大は遠くから見ても千葉雄大で、凄く舞台に映えるね。

 最後はやっぱり野々宮役の相田だよなぁ。ものすごい存在感。映っただけで笑いを取れる。それでいて一番パッションのあるセリフを言う。演技もうまく、抜群の危機管理。頭の回転速っ!

 あ、佐久間さんもゴッドタンお疲れ様でした。でも指入れるのは、よくないなぁ。ご時世だからね。今放送するかね。めちゃくちゃ笑ったけど。

 舞台終わりにはトークコーナーもあって、そこでようやく生の佐久間さんが見られたのだけど、トークも面白かったな。


 それにしても長かった。休憩も入れて4時間超え。演劇ってあまり見ないけどこんなの普通なの?お尻が痛くて幕間の休憩時間は佐久間さんのパネルを探してロビーをウロウロしてたんだけど、どこにもなくて。2幕であぁそれでパネルがないのか、と笑って、リスナーの投稿メールが自分のことのようで笑ったなぁ。



 少し残念だったのは、舞台裏が凄すぎて、せっかく現場に観に来ているのに、生で役者が見られる時間が少なかった、ってところかな。それと、映像と音声のズレね、、仕方ないのかもしれないけど。。

 チケットには生配信もついてきていたので、また楽しもう。