やふ( ゚д゚)


橘雄大です。







さて、今回は前回の続きになります。



前回を知らない方は9/27のブログを参照(*´-`)



………


……




終章   新たな出会い


僕は走っていた。
全速力で、なにかに縋るように走った。
文字通り走っていたわけではない。実際には車を運転していたわけだが。だけど僕は、僕の心は走っていた。
後悔なんてしてる余裕がないくらいに必死だった。


そして、10分ほど経って目指していた場所についた。
行きしなに寄った、あのガソリンスタンドだ。
給油した時よりかなり空いていた。
ガソリンスタンドの空いているスペースに急いで車を止め、自分が使った給油機の付近をくまなく探す。
だかしかし、ない。
見当たらないのだ。
使い慣れたいつものサイフの姿が。
車の後輪のタイヤの上においたままになっていたはずなので、必ずガソリンスタンドの敷地内に落ちていると予想していたが、その期待は見事に裏切られる結果となった。


まわりを見渡してみると、ガソリンスタンドの事務所が視界にはいった。
インターフォンを押して中にいる店員を呼び出し、僕は事情をこと細かく説明した。
それを黙って聞いてくれたその店員はすぐに給油機の上につけられていたカメラの映像を確認してくれた。
僕には見せることはできないとの事だったのでその店員が代わりに見てくれたのだが、そのスタッフが僕にカメラに映っていたものを説明してくれた。
まずは、僕が車を発進させた後に黒い財布のようなものが給油機のそばに落ちていた事。
次に、僕の後に車が一台はいってきたがその車は何事もなく給油して出て行った事。
そして、その次の車がはいってきた際に若い男性の2人組で助手席に乗っていた片方の男性が車の下にあった黒い財布のような物を拾ってトイレに行った事…。
その店員は最後に少し言いにくそうな顔をしながら「若いお兄ちゃん2人やったしおそらく持ち去られた可能性が高い」そう言った。


僕は再びの絶望を味わった。
こんな短時間で、時間にすれば30分以内に2回も絶望するなどどれだけ忙しい感情なのだとも言いたくはなるが
その時にはもちろんそんな事を思う余裕もなく、ただただ絶望しただけだった。


ガソリンスタンドの店員にお礼を告げ、僕は車に戻った。
エンジンをかけ、自分を落ち着かせるために煙草に火をつけてみた。
それが功を奏したのか、多少の落ち着きを取り戻した。
だか、少しでも心に余裕ができると色々な感情が湧き上がってくる。
後悔、絶望、怒り、悲しみ…。
おおよその負の感情のすべてを抱いた気がした。


煙草の火を消し灰皿に投げ入れた。
僕は携帯電話を取り、電話をかけ始めた。
クレジットカードや銀行のキャッシュカードの使用を止めてもらうためだ。
拾われて持っていかれたという事はもう返ってくることがないと判断してのことだった。
なので迷いなくカードの使用を停止すると決断が出来た。


カードの枚数が思ったよりも多く、すべてのカードを止めるまでに30分以上の時間を費やしたが何とかすべてのカードの使用を停止してもらった。
これでカードの悪用は出来ないはずだ。
それから、車を発進させた。
目的地は警察署だった。
理由は簡単、遺失物届を出すためだ。
戻ってくるかもという希望は捨てていたが、届けを出す事で仮にもしカードの悪用をされても補填が効くからだった。
そして、その頃にはもう僕の心は落ち着きを取り戻していた。


少し車を走らせ、目的の警察署についた。
真っ直ぐに受付まで行き、そこにいた警察官に事の顛末を説明した。
僕は警察の良いところは変に同情してこない所だなと説明しながらふと思う。
説明が終わり、僕の話を聞いていたその警察官が届け出の作成をはじめてくれた。
より正確な場所や時間を問われ説明しながらてきぱきと書類を書いていく。
僕は特に質問されることもなければ特にする事などなかったので、淀みなく動いている警察官の手をぼんやりと眺めていた。


しばらくした、ふいにその警察官の隣の席においてあった電話がなった。
別の警察官が電話を取って応対する。
する事がなかった僕はなんとなく電話の応対に耳を傾けた。
どうやら電話の相手は所轄の交番の警察官で取得物の届け出があったみたいだった。
あー、なるほどな。交番で出された届け出はこうやって警察署に電話してデータとして保存しておくのかと理解した。
興味が引かれたのでより会話の内容を注意して聞いてみた。
取得物は黒の長財布…場所は…身分証明書は免許証と国民健康保険証…持ち主の名前はシモム…


えっ!?
聞き慣れた、30年ともに生きてきた自分の名字を聞いた気がしたからだった。
いや待てよ、おれの勘違いかもしれない。もう少し会話を聞いておこう。
そう思ったが、やはりいてもたってもいられず目の前にいた書類を作成してくれている警察官に確認してみた。
すみません。隣の電話で応対してる取得物って僕の財布の事じゃないですか?
そう尋ねてみた。
その警察官はすぐに隣の電話の応対をしていた同僚に確認をする。
僕は自分の鼓動がはやくなるのを感じた。
半信半疑ではあった。
ここまで二度の絶望を味わったのだ。
幸運になど期待するものかと、そう思いながら来た場所でこんな事があるのかと。
だが、正直な気持ちを言えばかなり期待もしていた。
ひょっとしたら…。
そう思わずにはいられなかった。



そして、確認を終えた警察官が僕の方を向いた。
僕の顔見てから一呼吸をおいて、

貴方の財布で間違いありません。

僕の耳にはっきりとそう聞こえた。




周囲からなぜか歓声が聞こえた気がした。




………


……




-完-