〜平均542万円の内訳と、知っている人だけが得をする節約制度〜

【連載】710万人の現実 ― 30代・40代・50代のための「介護リスク」教科書|第3話


「介護のお金って、月5万円くらいでしょ?」

この連載の読者に事前にアンケートを取ったとしたら、おそらく多くの方がそう答えるでしょう。

半分は正しい。そして半分は、危険なほど甘い見積もりです。

生命保険文化センターの2024年度最新調査では、在宅介護の月額平均は確かに5.2万円です。

ところが施設に移った場合の月額平均は13.8万円。そして介護期間の平均は55カ月(4年7カ月)

 

計算してみてください。

在宅のみで乗り切れた場合でも、一時費用(住宅改修・介護用品の購入など)を加えると総額338万円前後。施設に入居するケースが混在する実態ベースでは総額約542万円

これが「介護のお金」の現実です。

しかもこれは「平均」。10年以上の介護になれば、軽く1,000万円を超えます。


この記事でわかること

  1. 在宅介護の費用構造 ― 月額・一時費用・総額の実態
  2. 要介護度別の「区分支給限度額」― 公的保険でカバーされる範囲
  3. 高額介護サービス費の払い戻し計算 ― 知らないと損する制度
  4. 医療費控除・障害者控除・世帯分離による節税の全手順
  5. 介護費用シミュレーション早見表

1. 在宅介護の費用構造 ― 3つの「かたまり」で理解する

介護にかかるお金は、大きく3つに分けて考えると整理しやすくなります。

かたまり①:一時費用(介護が始まるときにかかる費用)

費用の種類 金額の目安
介護用ベッド・マットレスの購入・レンタル 月額1,000〜5,000円(レンタル)
車いす・歩行器のレンタル 月額500〜2,000円
住宅改修(手すり・段差解消など) 0〜20万円(給付制度あり)
介護用品の初期購入(おむつ・介護服など) 2〜10万円
 

生命保険文化センター「2024年度 生命保険に関する全国実態調査」では、一時費用の平均は47.2万円

ただし、住宅改修費の給付制度(前話で解説した20万円枠)を使えば、この一時費用を大幅に圧縮できます。知っているだけで数十万円の差が生まれる部分です。

かたまり②:月々の費用(介護が続く間ずっとかかる費用)

費用の種類 月額の目安(在宅)
介護保険サービス(訪問介護・デイサービスなど) 1〜5万円(自己負担1割の場合)
介護保険外サービス(家事代行・見守りサービスなど) 1〜3万円
消耗品(おむつ・介護食品など) 0.5〜2万円
医療費(通院・薬代) 0.5〜2万円

これらを合算した在宅介護の月額平均が5.2万円(2024年度調査)です。

ただし注意が必要です。この「5.2万円」は介護度が比較的軽い要介護1〜2の方も含む平均値。要介護4〜5になると在宅でも月10万円を超えるケースが珍しくありません。

かたまり③:介護期間(何カ月・何年続くか)

期間 割合
6カ月未満 14.0%
6カ月〜1年未満 11.5%
1〜2年未満 16.5%
2〜3年未満 13.5%
3〜5年未満 17.1%
5〜10年未満 17.9%
10年以上 9.5%

出典:生命保険文化センター「2024年度 生命保険に関する全国実態調査」

平均55カ月(4年7カ月)ですが、10年以上が約1割いることに注目してください。「平均で準備すれば安心」ではなく、「長期化した場合のリスクを想定に入れる」必要があります。


2. 要介護度別「区分支給限度額」― 公的保険でカバーされる範囲

公的介護保険では、要介護度に応じて「1カ月に使えるサービスの上限額(区分支給限度額)」が決まっています。この範囲内であれば、自己負担は1〜3割で済みます。

要介護度 区分支給限度額(月額) 自己負担(1割の場合)
要支援1 50,320円 約5,032円
要支援2 105,310円 約10,531円
要介護1 167,650円 約16,765円
要介護2 197,050円 約19,705円
要介護3 270,480円 約27,048円
要介護4 309,380円 約30,938円
要介護5 362,170円 約36,217円

出典:厚生労働省(2024年度介護報酬改定後の数値)

たとえば要介護2なら、月に約19.7万円分のサービスを1割負担(約2万円)で受けられます。残りの約17.7万円は公的介護保険が負担します。

重要な落とし穴が2つあります。

一つ目は、限度額を超えたサービスは全額自己負担になること。「もっと訪問介護に来てほしい」「デイサービスの回数を増やしたい」と上限を超えると、超過分は10割自己負担です。

二つ目は、以下の費用は介護保険の対象外であること。

  • 居住費・食費(施設入所の場合)
  • 日常生活費(理美容代・娯楽費など)
  • 介護保険外サービス(家事代行・見守りカメラなど)
  • 福祉用具の購入費(一部)
  • 住宅改修費(限度額20万円を超える部分)

「介護保険があるから安心」という思い込みで準備不足になるのが、最も多い失敗パターンです。


ここからは有料パートです。


3. 高額介護サービス費 ― 払いすぎたお金が戻ってくる制度

公的介護保険には「高額介護サービス費」という制度があります。

1カ月の介護サービスの自己負担合計が一定額を超えた場合、超過分が払い戻される仕組みです。医療保険の「高額療養費」の介護版だと思ってください。

負担上限額(月額)

区分 対象者 月額上限
現役並み所得(課税所得690万円以上) 140,100円
現役並み所得(課税所得380万円以上) 93,000円
一般(市町村民税課税世帯) 多くの方が該当 44,400円
市町村民税非課税世帯 24,600円(世帯)
低所得(年金収入80万円以下など) 15,000円(個人)

出典:厚生労働省「高額介護サービス費の負担限度額」(2024年8月改定後)

最もよく使われる「一般」区分では、月44,400円が上限です。

つまり、どれだけ介護サービスを使っても、一般所得の方は月44,400円を超えた分が戻ってきます。

具体的な計算例

要介護5・在宅介護・自己負担1割のケース:

  • 月のサービス利用:限度額いっぱい(362,170円分)
  • 1割自己負担額:36,217円
  • 高額介護サービス費の上限(一般):44,400円
  • 36,217円 < 44,400円 のため、この場合は払い戻し対象外

一方、限度額を超えてサービスを利用した場合:

  • 月のサービス利用:500,000円分(限度額超)
  • 限度額内の1割自己負担:36,217円
  • 限度額超の全額自己負担:137,830円(500,000-362,170円)
  • 合計自己負担:174,047円
  • 高額介護サービス費の払い戻し:174,047円 - 44,400円 = 129,647円が払い戻し

ただし、居住費・食費・日常生活費は計算に含まれません。施設入所の場合、これらが月10〜15万円かかるため、実際の自己負担はさらに高くなることに注意が必要です。

申請方法

初回のみ市区町村窓口への申請が必要です。一度申請すると、翌月以降は自動的に払い戻されます(振込通知が届きます)。

「申請しないと払い戻されない」制度のため、介護が始まったら必ず確認してください。知らずに損している家族が非常に多い制度です。


4. 節税3セット ― 医療費控除・障害者控除・世帯分離

介護費用を減らすには、サービスを減らすだけでなく、税制と保険制度を正しく使うという視点が重要です。以下の3つは、多くの介護家庭が見落としている節税策です。


節税①:医療費控除

介護サービスの自己負担額の一部は、医療費控除の対象になります。

介護保険サービスで医療費控除の対象になる主なもの:

サービス 控除対象
訪問看護 ○(全額)
訪問リハビリテーション ○(全額)
訪問介護(身体介護が中心の場合)
通所リハビリテーション(デイケア) ○(全額)
通所介護(デイサービス) △(医療系サービスとの組み合わせの場合)
特別養護老人ホームの自己負担 ○(一部:介護費・食費の2分の1)
おむつ代 ○(医師の証明書「おむつ使用証明書」が必要)
福祉用具貸与 ×
訪問介護(生活援助のみ) ×

医療費控除の計算式:

(その年の医療費合計 − 10万円※)×所得税率 = 還付税額

※総所得金額が200万円未満の場合は総所得金額の5%

試算例:

  • 年収600万円の50代・所得税率20%
  • 年間の介護サービス自己負担(控除対象分):60万円
  • 医療費控除額:60万円 − 10万円 = 50万円
  • 還付税額:50万円 × 20% = 10万円

控除対象になるサービスとならないサービスが混在するため、年間を通じて領収書を必ず保管することが大前提です。


節税②:障害者控除(介護認定で使える盲点)

あまり知られていませんが、要介護認定を受けていれば、障害者手帳がなくても「障害者控除」を使える可能性があります。

多くの市区町村では、要介護1以上(一部は要支援2以上)の方に対して、申請すれば「障害者控除対象者認定書」を発行しています。この認定書があれば、確定申告で障害者控除(27万円)または特別障害者控除(40万円)を適用できます。

適用要件(市区町村によって異なります):

  • 要介護1〜2:障害者控除(27万円控除)
  • 要介護3〜5:特別障害者控除(40万円控除)相当として認定するケースが多い

試算例:

  • 年収600万円・所得税率20%
  • 特別障害者控除40万円を適用した場合
  • 節税効果:40万円 × 20% = 8万円(住民税も含めると年間12万円前後)

申請先: 親が住む市区町村の介護保険担当窓口または税務担当窓口

要介護認定を受けた年から適用できます(過去5年分の更正請求も可能)。ただし「申請しなければ発行されない」制度のため、見落としている家族が非常に多いです。


節税③:世帯分離

「世帯分離」とは、同居している家族の住民票上の世帯を分けることです。介護費用の観点から見ると、親と子の世帯を分けることで、親の所得区分が下がり、介護サービスの自己負担が減る可能性があります。

世帯分離が効果的なケース:

  • 高収入の子(または子の配偶者)と同居しているために、世帯全体の収入が高くなっているケース
  • 高額介護サービス費の負担上限が「一般」より上の区分に該当しているケース
  • 介護施設の食費・居住費の補足給付(軽減制度)の対象になれる可能性があるケース

注意点:

  • 世帯分離は法的に問題ありません(住民基本台帳法上、正当な手続きです)
  • ただし、健康保険の扶養から外れると親の保険料負担が発生する可能性があります
  • 効果があるかどうかは個別の収入・資産状況に依存するため、事前に市区町村窓口か社会保険労務士への相談を推奨します

5. 介護費用シミュレーション早見表

「うちの親が要介護○になったら、月いくらかかるか」を素早く試算するための早見表です。

在宅介護の月額自己負担(目安)

要介護度 介護保険サービス自己負担(1割) +保険外費用(目安) 月額合計(目安)
要支援1 〜5,000円 1〜2万円 1.5〜2.5万円
要支援2 〜10,500円 1〜3万円 2〜4万円
要介護1 〜16,700円 2〜4万円 3.5〜6万円
要介護2 〜19,700円 2〜5万円 4〜7.5万円
要介護3 〜27,000円 3〜6万円 6〜9万円
要介護4 〜30,900円 4〜8万円 8〜12万円
要介護5 〜36,200円 5〜10万円 10〜15万円

※保険外費用は家族の状況・地域・利用サービスにより大きく異なります

総額試算:在宅介護のシナリオ別

シナリオ 月額 介護期間 一時費用 総額(概算)
短期・軽度(要介護1・2年) 4万円 24カ月 30万円 約126万円
平均的(要介護2・55カ月) 5.2万円 55カ月 47万円 約333万円
長期・中重度(要介護3・10年) 9万円 120カ月 60万円 約1,140万円
最重度・施設移行(要介護4〜5・7年) 13.8万円 84カ月 50万円 約1,209万円

「平均的なシナリオ」で333〜542万円、「長期・重度」になると1,000万円超。

この数字と、親自身の年金収入・貯蓄を照らし合わせたとき、不足分がいくらになるか。それが次のアクションを決める土台になります。


6. 第3話のまとめ ― 3つのポイント

  1. 「月5万円」は在宅・軽度の平均値:施設に入れば月13.8万円、重度・長期になれば月10〜15万円。「介護のお金」は最悪シナリオも含めて総額で考える必要がある。平均的なケースで約338〜542万円、10年超の長期では1,000万円超も現実的。
  2. 高額介護サービス費は「申請しないと戻らない」:一般所得世帯の上限は月44,400円。介護が始まったら最初に市区町村窓口に確認すべき制度。一度申請すれば自動継続される。
  3. 節税3セットで年間10〜20万円の節約が可能:医療費控除・障害者控除・世帯分離の組み合わせは、多くの介護家庭が見落としている。特に「障害者控除対象者認定書」は要介護認定を受けた瞬間から申請できる。

次回予告

第4話「お金の現実② 施設介護の費用 ― 特養が空かない時代の選び方」

特養(特別養護老人ホーム)の待機者は2025年4月時点でまだ20万人超。利用率94.7%でほぼ満員の現実のなかで、施設を選ぶとはどういうことか。

年間120万円の特養から年間600万円超の有料老人ホームまで、5種類の施設の費用構造と入居要件を比較し、「待機を短縮するための申込テクニック」と「施設選びで絶対に確認すべき30項目」をお伝えします。

次回のキーデータ:特養の年間費用 約120〜168万円、介護付き有料老人ホーム 年間120万円台〜600万円超