肺がんの予兆を見逃すな!早期では肩が痛むことも
【これで私は助かった!】
命を落とすような重大疾患も、最初はほんの小さな病変から始まる。重要なのは「治せるきっかけ」を見逃さないこと。このコーナーでは、そんな生死を分けたポイントを、生還者の発言から探っていく。第1回目は「肺がん」。
■伊藤信一さん(60歳=仮名)のケース
今から8年前のこと。右肩に痛みを感じるようになったんです。最初はじっとしていると痛みはなく、腕を大きく動かしたときや咳をしたときだけ痛みが出るような感じでしたが、そのうち何もしなくても痛くなるようになったんです。
「これが五十肩かな…」と思って整形外科を受診し、エックス線検査を受けたら、肺の上部に2センチ大の影が写り込んでいたんです。
「万一のこともあるから」と紹介状を持たされて今度は呼吸器科を受診し、気管支鏡で組織検査の結果、早期の肺がんと判明しました。
医師は「すぐに手術をすれば治る可能性が高い」というので手術を決断。手術は成功し、その後2年間、経口薬の抗がん剤を飲み続けました。
抗がん剤は「再発予防と見えないがんを殺すため」とのことでしたが、副作用止めを一緒に飲んでいたこともあって、仕事に影響が出るような強い副作用は経験せずに済みました。
その後は月に1度の通院で経過観察を続け、手術から5年後、再発も転移もないことから、晴れて「完治」の太鼓判を押してもらうことができました。
最初に行ったのは整形外科。しかも症状は“肩の痛み”です。よもやそれが肺がんによる症状だなんて考えもしませんでした。
レントゲン写真にぼんやり写り込んでいた小さな白い影から、よくがんを見つけてくれたものだと感謝しています。
■専門医はこう見る
伊藤さんも言う通り、最初に診た整形外科医のファインプレーが光ります。同じ症状で整形外科や脳神経外科を受診しても「頸椎症」などの老化現象と考えて、がんの発見が遅れることは珍しいことではありません。
肺の上部(肺尖部)にできるがんは、周囲に骨がたくさんあるため、画像で見ても分かりにくい。しかも、この痛みはがんが胸膜を刺激することで起きる症状なので、患者自身も筋肉や骨の痛みを考えやすく、肺の症状という意識は持てないものなのです。
ちなみに、伊藤さんは「腕を動かしたり咳をしたときに痛みが出る」と話していますが、がんが進んで肋骨(ろっこつ)に浸潤すると、かなり強烈な痛みを伴うことになります。
ここまで行くとがんが見つけやすくなる半面、生還できる割合も大幅に低下する。その意味でも今回のケースはベストのタイミングで発見できた症例といえるでしょう。
肺がんというと「咳」「胸の痛み」などの症状を考えがちですが、早期では肩の痛み、また進行すると脊椎に転移して腰や背中が痛くなることもあります。整形外科の治療が効果がないまま長引く場合、念のためにがんを疑ってみることも大事なことです。(構成・穐田文雄)