Michael Jacksonなど著名なアーティストで構成された、U.S.A for Africaによる“We Are The World”は有名であろう。そのイギリス版とも言える“Do They Know It’s Christmas?”という曲がある。まず私は、この曲の詞の一節に強い違和感を抱いた。そして、詞全体にも疑問が残る。

“Do They Know It’s Christmas?”は、1984年のエチオピアでの飢餓をうけ、Band Aidというチャリティー・プロジェクトを発起した、Bob GeldofとMidge Ureによって作詞作曲された。20世紀最大のチャリティーコンサートといわれるLIVE AIDにおいては終盤に歌われており、映像を見ると、David Bowie, Paul McCartney, Freddie Mercury, Elton Johnなどまさに世界的トップアーティストらが歌っているのを確認できる。この面々が一堂に会しステージ上で歌っているということから、この曲の重要性、影響力の強さが分かるだろう。その詩が以下である。

 

It's Christmas time, There's no need to be afraid

At Christmas time, We let in light and we banish shade

And in our world of plenty, We can spread a smile of joy

Throw your arms around the world, At Christmas time

But say a prayer, Pray for the other ones

At Christmas time, It's hard but when you're having fun

There's a world outside your window, And it’s a world of dread and fear

Where the only water flowing, Is the bitter sting of tears

And the Christmas bells that ring there, Are the clanging chimes of doom

Well tonight thank God it’s them instead of you

And there won't be snow in Africa this Christmas time

The greatest gift they'll get this year is life

Where nothing ever grows, No rain or rivers flow

Do they know it's Christmas time at all?

Here's to you, Raise a glass for everyone

Here's to them, Underneath that burning sun

Do they know it's Christmas time at all?

Feed the world, Let them know it's Christmas time again

Feed the world, Let them know it's Christmas time again

(Written by Bob Geldof and Midge Ure)

 

最初に強烈な違和感を抱いたのは、”Well tonight thank God it’s them instead of you”の箇所である。訳せば、「今夜は、あなたたち(イギリス人など)の代わりに彼ら(アフリカ/エチオピアの人々)であることを神に感謝しよう」とでもなろうか。文脈から、Itは前3行全体を指していると考えられ、「恐怖に怯え、水も不足し、絶望的であること」とまとめられる。つまり、「恐怖に怯え、水も不足し、絶望的であるのが、自分たちイギリス人ではなく、アフリカ/エチオピアの人々であることを神に感謝しよう」と言っているのである。なぜ、「不幸が自分の代わりに他人にのしかかっていることに感謝すること」が倫理的に許容されるのか全く分からない。自分だけよければそれで良いのか。アガペーはどこへ?

クリスチャンの友人によると、「神がすべてを善しとされた、っていう記述が創世記にあってそれはこの世全体に対する肯定に近い」、またある友人によると、「社会的身分が低い人(女性、身体的障害のある人等)は、神から試練を与えられた人達だから、苦難を耐え忍びながら生きるのがよしとされる~このような人のもとにこそ神はいつも寄り添っているというのが聖書的な考え~祈りによって神と対話できるから、聖書に出てくる社会的弱者は神に祈りを捧げていることが多い」とのことで、そういう意味で、アフリカの人々が苦しんでいる現状に、ある種肯定的なのではないかとも考えられる。が、正直、腑に落ちない。

詞全体に関して、自文化中心主義的(ethnocentric)な感じがする。まず、” The greatest gift they'll get this year is life”(they=African/Ethiopian people)の箇所だが、最高の贈り物が命であることは、裕福なイギリス人にとっても変わりないはずである。アフリカ/エチオピアの人々は、ただ生きていること以上に喜びを感じ得ないだろう、感じる余裕もないだろうと作詞者が考えていると推測してしまう。(たとえ飢餓に苦しんでいたとしても)アフリカ/エチオピアの人々だってイギリス人と同様に様々なことに喜びを感じて生きているはずだ。想像力に欠けているな、という感想を抱かざるを得ない。

 次に” Where nothing ever grows, No rain or rivers flow”の箇所であるが、アフリカでも全く植物が育たないわけはないし、北アフリカ(サハラ砂漠)以外では、雨も降る。そして世界地図をみれば一目瞭然だが、南北にナイル川が走っている。アフリカ/エチオピアにステレオタイプなイメージを押し付けていると言わざるを得ない。

 最後に曲名にもなっている”Do they know it’s Christmas time at all?”という歌詞に関して。アフリカ/エチオピアには、キリスト教徒以外も大勢いる。確かにキリスト教徒の絶対数は多いが、アフリカ全体で多数派とは言い難い。北アフリカにおいてはイスラム教が中心的で、なおさらである。にもかかわらず、キリスト教的な「クリスマスであることを知っているか?」と尋ねるのはある意味、不遜ではなかろうか。まさに自文化中心主義的である。

 ここまで、かなり批判的に歌詞を検討してきたが、Band Aidというプロジェクト、LIVE AIDというコンサート、そして、”Do They Know It’s Christmas?”という曲に対して、私は(帰結主義的な考えから)肯定的である。これらの企画によって救われた、生かされた人々は多くいるはずで、それは善であると一旦評価している。。最初に挙げたようなアーティストが一堂にパフォーマンスしている映像を観られることは自分としても嬉しい。この曲が決して嫌いというわけではない。本稿は、ただ単純に、歌詞に対する疑念を読者と共有したいがために書かれた、ということだけ最後に付言しておく。