スンヒョンが何故そんな事を言ったのかわからなかった。
どうして?
私を裏切ったのはあなたでしょ?
私が抱いていた思いと同じだなんて…
私は、心の奥底にしまい込んだ記憶のページを今ゆっくり開いてみた…
五年前のあの日…1ヶ月の語学留学を終え3日後に帰ってくるスンヒョンを心待ちにして待っていた。
その日、見慣れない番号から電話が…
スンヒョンのお父様…
あなたには黙っていたけれど、私お付き合いを始めてから、あなたと別れるようにと何度も忠告を受けていたの。
驚いた?
何故、相談してくれなかったんだって顔してるわね。
あなただから言わなかった、いいえ言えなかった。
スンヒョン。あなたは優しい人よ。きっと私が事実を話してしまったらきっとあなたは思い悩んだことでしょう。
私はあなたを苦しめたくなかった。
度重なる忠告に、私から身を引けばあなたが苦しませずに済むんじゃないかとも考えた事もあったわ。
でも、私には出来なかった。
あなたと別れるなんて人生の終わりを迎えるようなものだから…
いつかお父様が諦めてくれるだろうと思うように願っていたけど。
「先生、お忙しいところお呼びだてして申し訳ありません。私も忙しくてね。用件は手短に済ませてしまいましょう。
スンヒョンと別れていただけますね。」
「……。」
「実は、スンヒョンの意志はもう確認済みでね。別に先生、あなたが嫌いになったわけじゃない。ただあの子は自分の置かれている立場をようやく理解してくれただけなんですよ。」
「どういう意味ですか?それが私とのお付き合いにどんな関係があるんですか?」
「おや?あなたほどの頭のいい方がおわかりにならないとは…簡単なことですよ。あの子は、グループの利益になる道を選び、あなたとの関係を終らせるということですよ。」
「嘘…でしょ?スン…彼に逢えませんか?出来れば彼から直接理由を聞くことはできませんか?」
「先生?スンヒョンはああ見えても、まだまだ子供だ。あなたの顔を見たらせっかくの決心も揺らいでしまう。あの子を苦しませる結果になっても先生あなたはお会いになりたいと…」
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「どうして連絡してくれなかったんだ。」
「私もあなたの声が聞きたかった。顔を見たかった。この手でこの指で確かめたかったあなたを…
でもあなたに連絡をして同じ事を告げられると思ったら怖くて出来なかった。
お父様の言うとおりあなたを苦しめる事になってしまうなら。
あなたが選んだ答えなら私は従おうと決心したの。」
今にも流れ出しそうな涙を必死にこらえるユリン。
知らなかった。僕が知らない所でそんな事が起きてたなんて…
その事がこんなにもユリンを悲しませ、苦しませていたことも…
なんて僕は馬鹿だったんだ。
すっかり被害者にでもなったかのように一瞬でも彼女を憎もうとさえ思っていた。
彼女は一人悲しみを背負いただ耐えていたというのに…
それがすべて僕を思っての彼女の愛情だとも気づかずに…
「ユリン…僕は…」
「スンヒョン。これが五年前のすべてよ。
そして私は何もかも捨てて日本へやってきたの。理由はどうであれ事実私達は五年前のあの日に終わったの。」
あれからもう五年…
あまりにも長い年月が流れてしまった。お互い家庭をもちそれぞれの道を歩いている今…もうどうすることも出来ないのよ。
「君はそれでいいの?」
僕は何も知らなかった君が僕の元から去って行ったとばかり思っていた。
こんなこんなバカな事って…
「スンヒョン。もういいの…
あなたを見ていれば分かるわ。
だからもう何も言わないで…あなたは自分を責めないで。
それじゃあ五年前あなたを思って決断したことが無駄になってしまう…
私はただあなたを苦しめたくなかっただけなの…。」
「やっぱり、あなたとお会いできて良かったわ。これでやっと自分の気持ちも整理ができそうよ。
もう私達お会いすることもないでしょう。」
「ユリン本当にそんなふうに思っているのか?本当に…。」
「えぇ…今日はそのつもりであなたのところへ伺ったのだから。
ごめんなさい。私もそろそろ失礼しないと…
着替えたいのでベッドルームお借りしてもいいかしら?」
本当にこれで終われるのか…
僕がこの五年間抱き続けてきた感情は全て間違いだったんだ。
なのに君は事実を知ったから終われるとでも言うのか?
僕には簡単に割り切ることなんて出来ないよ。
もう、これ以上は無理…部屋にかけこみ後ろ手にドアロックをかけると涙が溢れ出てきた。
スンヒョンは知らなかった…
私達別れなくても良かったの?
あの時、何が何でもスンヒョンに会っていれば…
今となっては何を言っても遅すぎる。もう元には戻れないのよ…私達…
身支度を整えスンヒョンの元へ
「今日は、本当にごめんなさい。おかげでもう大丈夫みたいよ。
もう、お会いする事もないでしょうけれど、あなたもお元気で。」
部屋を出て行こうとする私の腕をスンヒョンが力強く掴む。
「僕は、今でも君を愛している。妻との結婚は愛情じゃない。
この五年間は、全てグループの為に生きてきたようなものなんだ。
五年という長い年月が過ぎ去ってしまったけれど、君を忘れたことなど無かったんだ。
だから僕は今でも…。」
私は流れ落ちそうな涙を一生懸命堪えながらなんとか声を絞り出す。
「もう終わったのよ。お互い昔の傷を慰めあってみても、もう元にはもどれない。永遠に…
スンヒョン手を離してちょうだいお願いよ。」
そう言うと、僕の腕を払いのけユリンは、ドアの向こうに消えてしまった。
僕はただ彼女を見ているだけしか出来なかった。
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帰宅後、シャワーを浴びながら思いっきり泣いた。
スンヒョンは知らなかった。あの時、私達別れなくても良かったの?
五年前の出来事が思い出され涙が止まらない。
今でも私を愛していると…
帰り際に掴まれた腕が少し赤みを帯びていて彼の言葉を思い出すたびに痛んだ。
スンヒョンの気持ちを知って何故か嬉しいと思う自分。博之の顔がちらつき心が痛む。
わたしもよスンヒョン。
あなたのこと忘れたことなんて1日もなかったわ。
どんなに博之との生活が幸せであってもあなたはいつも心にあった。
博之を裏切ることなんて到底出来ないことわかっているけど…
あなたの気持ちを知ってしまった以上、私はいつまでも気持ちを偽り続けることなんて出来ない…
博之が、出張先から帰国するのは4日後。
私、このまま…
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ほとんど眠れずに朝を迎えてしまった。
私は、おもむろに携帯を手に取りホテルへ電話を入れた…
「もしもし。ユリンです…」
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