..25年も前。これは当時うら若き女性の話です。



..近所に私の母の知り合いのお店(スナック)が
オープンするということで、別に行きたくもなかったけど
母と一緒に開店パーティへでかけた。

..そこはそんなに広くない、10畳程度のお店だった。
でも新築の臭いがプンプンしていた。
スナックというけど、飾りつけはシンプルで誰でも
気軽に入れるような明るい感じだった。

お店のマスターがむかえてくれた。

そんなにお年でもないだろうけど、髭をゆたかにたくわえて
50歳をすぎた感じにみえる。

彼はニコニコして、私に向って
「あれー 葉子ちゃん(母親の名前)の娘さん?」

「かわいらしいですね。おいつくなのかな?」

あまりに唐突に子供扱いされたのが気に入らなかったのか
不機嫌にこたえた。
「私はもう19歳です。短大に通ってます」

それでもマスターはニコニコしてた。

しばらくして、そのせまいお店のフロアーには
友人らしき人が10名も集まった。
そしてカラオケ大会がはじまった。

..演歌オンパレードにほとほとあきれていたところに
マスターが私に
「ねえ あなたも歌ってよ。」

「そうだ 松田聖子 って最近流行ってるじゃない」

「白いパラソルを歌って」

えぇーー?

それこそふくれ面で
「わたし 聖子ちゃん嫌いなの!」

ま いいじゃない って人懐っこい笑顔で
マスターに促され いやいや歌わされた。

「うわー うまいじゃん!」
マスターもみんなも すごく喜んでくれた。

ちょっぴり 機嫌をなおした私だった。

..

..

一月後 マスターが亡くなった。
交通事故だった。

母から聞かされて、すごく驚いた。

こんなことなら、「白いパラソル」もっとちゃんと
歌うんだったなぁ..

いまでも、あのマスターの笑顔を思い出すと
胸にちいさな痛みがはしります..。