(※ネタバレあるので読んでる人向けです)
『ゴールデンカムイ』ほんと面白いですね~。

ゴールデンカムイ 1 (ヤングジャンプコミックス)/野田 サトル

¥555
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狩猟グルメ顔芸漫画としてすっかり定評が付いていますが、本作のキモはやはりキャラクターたちの異常(なまでの個)性だと思います。
日露戦争帰りの主人公・杉元佐一がアイヌの少女アシㇼパと組んで、金塊の在処の暗号が刺青された脱獄囚人たちをとっ捕まえながら、同じく金塊を狙う新選組の残党や第七師団と戦う話なので、必然登場キャラクターは「悪いやつら」が多くなっていきます。彼らはそれぞれ本当にキャラが濃く、限られた話数の中で強烈に印象を残していきます。

中でも度肝を抜かれたのは、4巻終盤から登場する辺見和雄というキャラクターとその顛末でした。野生のイノシシに襲われ、必死の抵抗むなしく食い殺されてしまった弟の姿を見て、自分もいつか圧倒的な暴力に相対し極限の中で命の遣り取りをしたい、そして無残に殺されてしまいたい、という願望を持つサイコなキャラクターです。

※うずうずする辺見ちゃん。そもそもこのエピソード、何故か杉元と辺見のロマンチックラブストーリー仕立てになってて本当に意味が分からない。素晴らしい。(『ゴールデンカムイ』5巻, 講談社, 14頁)

自らを殺してくれる存在を求めると同時に、極限の状態であがく人間の姿が見たいあまり殺人衝動の赴くまま人を殺し網走刑務所に収監されていた囚人であり、己の欲望の邪魔になるのならば罪のない人間でも躊躇なく殺してしまえる、紛うことなき「悪いやつ」なのですが、一連のエピソードの中でなんと彼の願望は最高の形で成就します。
私は読んでいる最中、こういうキャラクターは自分の意とは真逆のつまらない死に方をするのが定石だろうと思っていたので、絶頂の中で最高に煌きながら死んでいった辺見ちゃんの姿に呆気にとられてしまったのです。そして「何だかんだ悪人なのだから」「報いを受けるはずだ」という、無意識下で働いていた勧善懲悪精神がキレイに裏切られたことに、たまらなくカタルシスを覚えてしまいました。

『ゴールデンカムイ』野田サトルインタビュー 「もっと変態を描かせてくれ!」複雑なキャラクターが作品をおもしろくする!!
このマンWEBに掲載されたインタビューで語られているように、ゴールデンカムイの登場人物たちは皆一筋縄ではいきません。設定上の主人公/敵役といった役割に対する読者の固定観念をブチ壊してくれるような強烈な性格を与えられていて、それがとても魅力的なのです。
物語の天秤を動かしているのは善悪や行為の正当性ではなく、生と死の間で張りつめる欲望であって、どれだけ悪人であっても変態であっても彼らが作中で「断罪」されることはないのです。
倫理道徳が骨子ではない。かといって露悪的な、クズほど得をするような物語でもない。「絶対の神様」がいない混沌とした世界だからこそ、登場人物たちの多面性と異常なまでの個性がぎらぎらと輝けるのでしょう。まさに野生。まさに生命力。勃起!!生あるいは死へと向かう欲望に、全力で身を投じる変態たちに対する、野田先生の深い愛情を感じてやみません。

ゴールデンカムイを読んでいると、ダイナミックなキャラクターはそれを活かす世界があってこそで、その逆もまた然りなのだと思い知らされます。本当にエネルギッシュな漫画だ。
このエネルギーはそのままお話の推進力とも直結していて、まだ5巻だということを忘れるくらいのドライブ感にビクンビクンします。ヤンジャン本誌を読む限り、今後も愉快な変態たちがたくさん出てくるようで楽しみでなりません。まさか勝新が……!


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以下は覚え書きも兼ねた余談

野田サトル先生はインタビュー(というか言動)も大変面白いです。
『ゴールデンカムイ』野田サトルインタビュー ウケないわけない! おもしろさ全部のせの超自信作!
※前述のインタビューの前編。“許すまじ『ダンジョン飯』です。”

「ゴールデンカムイ」特集 野田サトル×町山智浩対談 (1/3) - コミックナタリー Power Push
※町山智浩とのスカイプ対談記事。ここでもキャラクターの変態性についての話が。

ブログも何とも言えない味わいがあって面白いっす。
野田サトルのブログ
※取材の裏話が載っているので、漫画を読んだ後だと更に楽しい。可愛いホロケウカムイ。

ワンドロ(ファン主催のお絵かき企画)に作者自らR18絵を投稿するイカレたTwitterアカウント(@satorunoda)や、ヤンジャン本誌のコメント欄からも目が離せない。

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更に余談

前作の『スピナマラダ!』(全6巻)もめっっっっっっちゃくちゃ面白いので読んで……読んでください……Kindle出てるから……。
スピナマラダ! 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)/集英社

¥価格不明
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スポ根ものとして完成されてます。キャラクターそれぞれの心情描写がとても丁寧で、癖のあるキャラもとっても魅力的に描かれています。競技への熱いリスペクトをビシバシ感じると同時に、マイナースポーツであることに対する触れ方も真摯です。端々のとぼけたギャグも絶妙に効いていて、この読後感の良さはゴルカムへ継承されているんだなと。
スターシステム的に出てくるあの人にも注目です。めっちゃいいキャラだから!