熊本県の昔話

昔、熊本県山鹿市小坂(おさか)というところには、お仙じょ(おせんじょ)と呼ばれる岩切り場がありました。このお仙じょは寂しい場所で、人を騙すというキツネが住みついていました。

 

ある時、坂村に住む米(よね)さんが、夜の帰り道にお仙じょを通りかかると、どこからか人の足音が聞こえてきました。米さんはゾッとして、無我夢中で走って家に帰りましたが、お土産にもらったご馳走を狐に取られてしまいました。

 

 

またある時、お婆さんが町でたくさんの買い物をした帰り道、夜にお仙じょを通って帰っていました。するとまた、パタパタと人の足音が聞こえてきました。威勢のいいお婆さんでしたので、「キツネめ!わしゃ取られんぞ」と威嚇しましたが、結局は買ってきた食材を全部取られてしまいました。

 

怒った村人たちは「毒まんじゅうを作って狐に食べさせよう」と相談しました。しかし、この話を知った定助(さだすけ)さんは「それではあまりにも可哀そうだ」と反対しましたが、村人たちは聞き入れませんでした。

 

 

翌朝、定助さんはキツネの事が心配になり、キツネの巣穴を覗いてみると、母親ぎつねが二匹の子ぎつねを抱いたまま死んでいました。悲しんだ定助さんは、それからは村人たちとは一切口を聞かなくなり、石切り場へ毎日通うようになりました。

 

それからしばらくして、岩場には立派な地蔵さまが刻まれていました。これは定助さんが掘ったものに違いないのですが、定助さんはどこへ行ったのか、その姿はどこにも見当たりませんでした。この地蔵さまは今も残っているそうです。

 

出典:まんが日本昔話データベース