東国征伐に先立ち、ヤマトタケルは叔母のヤマトヒメから三種の神器の一つ草薙の剣をもらい、強大な力を背景に各地を制圧していった。しかし、快進撃を続けたヤマトタケルも、英雄らしい神秘的な最期(さいご)を迎えることになる。東国を制圧し、自分の力を過信したヤマトタケルは、草薙の剣を妻のもとにおいて、伊吹山の神の制圧に向かった。だが、山の麓で出会った神にヤマトタケルは全く歯が立たない。神は大きな猪の姿で現れた。山の力で天候を操る神は、祟りによってヤマトタケルの気を挫き、連戦連勝を重ねた英雄を山から撃退した。伊吹山の神に祟られ病身となったヤマトタケルは、大和を目指して旅に出た。だが、疲労困憊で体がいうことを聞かず、伊勢の能煩野(のばの)の地で力尽きてしまった。そして、山々から見える大和の美しい景色を褒め称え、命を落としてしまう。その後、ヤマトタケルの霊は白鳥となって河内(大阪府)の志幾(しき)に留まり、再び大空へ翔けあがっていった。ヤマトタケルは、草薙の剣を持たなかったため死んでしまった。つまり、これまでの東国遠征は、ヤマトタケル個人の力ではなく、草薙の剣の霊力のおかげだったといえる。この草薙の剣の霊力は、奉納されていた伊勢神宮に由来すると考えられる。ここから、ヤマトタケルの最期は伊勢神宮の霊力を示す物語として読み解くことが出来る。なお、白鳥は香川県の白鳥(しろとり)神社に降り立ち、命を落とした後、当地で祀られるようになったという。