―随筆冒頭―

清少納言・1001(平安時代中期)

春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは 少し明りて紫だちたる雲の細くたなびきたる。 

夏は、夜。月の頃はさらなり。闇もなほ。螢の多く飛び違ひたる。また、ただ 一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。  

秋は、夕暮。夕日のさして、山の端(は)いと近うなりたるに、烏の寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど、飛び急ぐさへあはれなり。まいて雁 などの列ねたるがいと小さく見ゆるは、いとをかし。日入り果てて、風の音、 虫の音など、はたいふべきにあらず。  

冬は、つとめて。雪の降りたるはいふべきにもあらず。霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎ熾して、炭もて渡るも、いとつきづきし。  

昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりて、わろし。  

 

《解説》

「枕草子」は平安時代の中ごろに中宮定子に仕えた女房、清少納言により執筆されたと伝わる随筆集です。「随筆」は今でいうところのエッセイ。身の回りで起きた出来事や、見聞きしたニュースなどについて自分の感想を書いたものです。 作者の清少納言は一条天皇の妃・藤原定子(ふじわらのていし)に仕えていて、華やかな宮中での生活での体験や出会った人々についての感想を「枕草子」に綴っており、段数(話のネタの数)は約300に及びます。内容から考えると、995年ごろには一部ができあがり、1001年ごろまでには完成していたと思われます。

書き出しの「春は曙(あけぼの)。やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて、紫だちたる雲の細くなびきたる(春は夜がちょっとずつ明けていくころがいい。山と空の境目がしだいに白くなっていき、少し明るくなったところに、紫がかった雲が細くなびいているのがいい感じ)」というフレーズはとても有名です。