■価格が動くのは6カ月先か、あるいは後か?
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前回も触れたが、書籍「フェラーリ経済学」にはフェラーリオーナーたちは、景気の指標の一つである日経平均株価よりも半年早く動き始めるとあった。確かに、昨年のリーマンショックよりも前の2007年12月にオーナーたちが投売りしていたという水面下の動きは象徴的でもあった。
それと同時に、元々、この企画の発端となったフェラーリオーナーで個人投資家の鮎川健氏の発言に「フェラーリの価格は日経平均に半年ほど遅れて連動するのでは」という意見があった。
この2つの概念はまったく違う要素なのだが、実はそれぞれ正しい意見なのだ。前回も登場したフェラーリ専門店「コーナーストーンズ」代表の榎本修氏に聞いてみた。
「オーナーたちが(日経平均株価の)半年前に売りに出すために在庫が増えます。そして、そのまま不況となって、売れ残ってしまうために在庫となります。それで店側が価格を下げるようになってくるのです。株価との関係を厳密には説明しにくいですが、景気の関係でそういうふうになるのかなと思います」
つまり売り手のショップ側とすれば、やはり売れないのであれば利益を削ってでも売ろうとするために価格は下がる。一方で、景気がよくなると、ショップ側は売れると思い、利益を上乗せしようとするために上げるということのようだ。基本どおり需要と供給の関係で決まる。
では、安く買って、高く売る方法を考えてみよう。
■フェラーリは不動産取引と同じだ
この見出しは誤解を与えてしまう言い回しだが、両者をイコールというつもりは毛頭ない。つまり取引形態がよく似ており、株式のように公設の市場は存在せず、当事者の間で取引されるということだ。不動産を取引した人ならば、話はより理解しやすいだろう。
榎本氏は「先ほどの半年遅れの価格の話ですが、それはあくまでインターネットや広告に表示されている価格のことです。だから、実際の価格は違いますね。不動産の取引と同じで、店頭で商談すれば、それは表向きの価格だということがわかるはずですよ」と話した。
不動産を買う場合は「指値」というものがある。例えば2億円の物件を買うとすれば、相手の経済状況を読みながらこちらが有利に立てそうなら、1億5000万円などと値切ってみる。他に買い手がいない状況ならば成功しやすいだろう。当然だが不況時は買い手が少なくなるために需給の面でも有利だ。榎本氏も「実際に店頭で聞いてみる方がいい」という。
鮎川氏の半年後理論で言うならば、買う側にとっては大きなチャンスとなるのは、日経平均株価が底を打った地点から半年後くらいということ? 今年は3月10日の終値7054円98銭から上昇を始めた。その地点が一つの景気の底と考えることができる。そして、底から半年後はちょうど10月ということになる(必ず上がる、もしくは下がるという保証はありません)。確かに在庫を抱えている業者は多くいるという。買いたいとうい人にとっては、いまチャンスなのかもしれない。
では、今後はどうなるのか?
■半年後にフェラーリ価格は上がる?
日経平均株価は今年3月に7000円台から現在は1万円台に戻した。“半年後理論”提唱者の鮎川氏は「日経平均株価がこのまま好調に推移すれば、フェラーリの価格も上がるのではないでしょうか」という。株価がこのままという前提ではあるが、半年後に価格は上がるという図式も成り立ちそうだ。
榎本氏は「今は底か、底に近い状態だと思います。ただし、今後価格が上がるかどうかというとわかりません。フェラーリは世界で取引されている車です。1でも、先日の不況は世界同時でしたから、世界全体に買う力が落ちていると思います。先が読みきれない恐怖心はみんな持っているでしょうね」と予測する。
「F40」が1989年に4500万円で発売され、1990年には2億円を超えて、最高2億5000万円で取引されたこともあるという。バブル経済は弾けてしまい、フェラーリの価格も株、土地と同じくして下がった。ただし、この景気崩壊は世界で見て日本だけの現象だった。ただ、今回は規模が世界中のために、購買力には少し疑問符もつく。
大きな値上がりはわからないが、かなりの買い場であることには違いないようだ。特にこれ以上ないというくらいの所まで下がった1000万円までのタイプは本当に買い時なのだという。
では、最後に「フェラーリ道」について触れてみたい。
■「走る不動産」or「走るぜいたく品」
バブル経済華やかし頃にはF40などのせいもあって、フェラーリは「走る不動産」と形容された。その一方で、本当に好きな人たちが節税目的など金に関係なく買う「走るぜいたく品」の2種類に大きく分けられる。フェラーリ取引の現場では大体この2者に分けられるというが、この不況で前者が消え、後者の本当に好きな人が生き残ったという。
「外資の1億円プレーヤーの人たちは本当にどこに行ったのでしょう。うちの店は本当にフェラーリが好きなお客さんばかりになりました。お金ばかりを気にしていても買う気になれないでしょうからね。フェラーリというのは、それらを超越した絶対的なブランドでもあるんですよ」
当然だがフェラーリが好きであれば、景気は関係ないということだ。ちなみに榎本氏の店舗は2008年は150台以上を売り上げた。仕入れた車は完売続きで「おかげさまで、うちの店はパーフェクトウインですよ」という。これは2007年の終わりに、景気の予兆を読み取ったことが不況の中でもビクともしなかったということなのだろう。
フェラーリ市場の動向を丹念に定点観測するのも景気を知る一つの方法かもしれない。つまり「景気はフェラーリに聞け」ということか。(終わり)
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