テレビ朝日「刑事一代」を見たとき、久々に本物の俳優を見たような気がした。渡辺謙のことである。共演した相棒の高橋克実は、さしずめモーガン・フリーマンと同じ助演男優賞もの。脇を固める渋い演技は、この人を超える俳優はなかなか見当たらない。高橋がいるからこそ渡辺謙も輝くのだろう。
そして渡辺謙。地味なノンキャリア叩き上げの刑事役なので、華々しいアクションがあるわけではない。しかし地道に犯人に迫っていく迫真の演技は、この人の実力の高さを見せつけてくれた。これまで「健さん」といえば高倉健に決めていた。しかしこれからはもう一人の「謙さん」の存在を加えることにした。まちがいなく世代交代は進んでいる。願わくば謙さんには、これからはできるだけ映画に出演してお金を取ってファンに見てもらってほしい。
その一方ではキムタク。謙さんを見る前に犯罪を脳科学で推理し、解決する「MR.BRAIN」を見た。とにかく軽い。まさにテレビドラマだ。キムタクを見た後だと一層謙さんが重く見えるのから不思議だ。この違いは何なのか?一言で言えば「タレント」と「俳優」の差である。キムタクは映画では実績がない。確かに「武士の一分」はヒットしたが、この作品は山田洋二監督の作品だからヒットしたのだ。キムタクは、上から見ても下からみてもキムタク。でもキムタクはこれで良い。彼が偉大なるワンパターンが売り物だ。
キムタクがカローラとすれば謙さんはさしずめセルシオか。大衆車と高級車という対角線上にいるわけだが、決してキムタクが謙さんより安いといっているわけではない。カローラは世界で一番売れている世界一の車だ。故障はしないし、乗り心地に不満はない。この車に一度乗ると大ファンになってしまう。対するセルシオは、一度でもいいから乗ってみたいあこがれの車。販売台数はカローラとは比較にならないがブランド力は圧倒的。ファンはどっちを取るのか。
さて、キムタクVS謙さんの先週末のドラマ対決は興味が倍増した。まず「MR.BRAIN」が何とか18.5%。第1回目は24%を叩きだしてキムタクの存在を見せ付けてくれたがその後は18%前後に急落。そして、二夜連続の第1回「刑事一代」が19.4%。第2回(日曜日OA)は21.6%。視聴率というのは落ち出すと歯止めが利かなくなり、上がりだすと天井がなくなる。カローラも健闘したが、今回はセルシオの勝利。それにしても謙さんはすごい俳優だ。同じ時間帯に、フジテレビに「トランスフォーマー」をぶつけられてもびくともしない。「もし」はないとしても、もし強力な裏番組がなければ「刑事一代」は25%はいったろう。