思わず左の拳をグッと握った。目の前で見た快挙達成の瞬間。張本勲氏は「ホッとしたよ。彼らしいヒットだった。見事に、簡単に打ってくれたね。正直、病み上がりだし3、4試合はかかると思っていた。さすが、やっぱりイチローだね」と喜んだ。
前日に続いて、スタンドからイチローの姿を追い続けた。達成の瞬間、前記録保持者としてスコアボードに「Legendary Japanese Baseball Player(伝説の日本の選手)」と紹介された。さらにカラービジョンに姿を映されると、立ち上がって一礼した。
「男みょうりに尽きるね。野球の本場、アメリカに来てこうやって紹介されて…。イチローのおかげ。お礼を言いたいよ。一生の思い出になる」
1週間の滞在予定。しかし17日に帰国すると思い込んでいたイチローは「張本さんのいる前で、っていうことが一番重要だった」と、見事に記録を更新。その思いに張本氏も応えた。試合前にはこの日のために新たにメーカーに発注した、長さ34インチ、重さ925グラムの現役時代と同じモデルのバットをプレゼント。試合後には会見場に足を運び、自ら「おめでとう」と声を掛けた。
「本心を言えば、悔しい部分はある。でも彼なら仕方がない。同じバットマンとして認めざるを得ない。それほどの選手だ」と張本氏。「あとはケガをしないで1年でも長くプレーして、ピート・ローズの4256安打をぜひ抜いてもらいたいね」と付け加えた。自身は41歳で引退。成し遂げられなかった夢を後輩に託した。
イチローいわく張本氏は「いかつい人」。そして「僕たちの世代が、そのいかつい人たちを超えていかないといけない」とも言った。世代は違い、時代が変わっても、この記録の尊さを分かち合えるのは日本球界ではこの2人しかいない。