ゲーツ米国防長官は26日、これまで禁止していたイラクやアフガニスタンで死亡した米軍兵士のひつぎの写真撮影を、遺族の同意を条件に許可することを決めた。ブッシュ前政権は撮影禁止を徹底し、戦死者が出ている戦争の実態を隠そうとしていると批判されていた。撮影許可は前政権との違いを打ち出す狙いがあるとみられるが、遺族からの反対も強い。今後、アフガンでは戦闘激化も予想されており、どこまで公開されるかは不透明だ。
≪前政権と違い≫
戦死した米軍兵士のひつぎは、星条旗にくるまれてデラウェア州のドーバー空軍基地に運ばれる。国防総省は1991年の湾岸戦争以来、プライバシー保護や死者の尊厳を守ることを理由に撮影を禁止していた。
ブッシュ前政権ではイラク戦争が当初の予想よりも長引いたため、ひつぎの写真が米メディアを通じて流れることで、米国民の厭戦(えんせん)ムードが一層広がるのを防ぎたいとの思惑もあったとみられる。
ブッシュ前政権下でも国防長官を務めたゲーツ長官は、撮影禁止に違和感を覚え、1年ほど前から解除に取り組んだが、死者数が最も多い陸軍を中心に強い抵抗に直面したという。オバマ大統領が1月に就任したことで政権内の雰囲気も変わり、許可につながった。
≪遺族同意条件≫
ゲーツ長官は記者会見で「遺族に選択肢を与えるべきだ」と述べ、遺族の同意が条件である点を強調した。
反戦団体や米メディアからは歓迎する声が上がる一方で、遺族団体のジョン・エルスワース代表は「非常に失望した」と述べ、今回の決定を強く批判した。20歳だった息子を2004年、イラクでの戦いで失ったエルスワース氏は「政権は戦死者を政治的に利用しようとする反戦グループに屈した。何のためにひつぎを見せる必要があるのか」と語っている。
≪死者増の恐れ≫
戦争開始以来、これまでアフガンでは580人以上、イラクでは4200人以上の米兵が死亡している。
イラクでの米兵の死者数は増派の成果もあり大幅に減少しているものの、大統領がイスラム原理主義勢力タリバンなどを掃討するため増派を決めたアフガンでは、今後死者数が増える可能性も指摘されている。