「奈落」

ステージ裏に塩崎先輩がいて、順番等を案内してくれました。
暗く、ひんやりして 誰かにすがりたくなるような舞台奈落。
けれどその薄暗い空間にかすかな予感のようなものを感じます。
学校であっても外であっても、奈落は同じだなと思います。

出番。


ギターを持ってステージに上がりました。
用意された椅子に腰掛け、ギターを膝に載せました。

男子の冷やかしが耳に入った。
それは猥褻な言葉でした。

私は・・歌うのを待ちました。
自分が「点」になったと瞑想しました。
男子はお互いに


「しー。」


と人差し指をたてあい、次第に体育館は奈落と同じく静かになりました。
そこへゆっくりとアルペジオを放しました。

聴いて貰えた・・。
いつもは強気な自分も、学校はかなり不安でした。
一種特有の雰囲気があるからです。
おしまいの曲はノリ良く、思い切りのストロークで。

「♪緑の森のプラタナス~・・・」

プツッ!

明らかに、アンプの接触不良です。
マイクが落ちました。

私は音を切らさず、 続けました。

気持ち体育館の正面の壁に音と声をぶつける感じで。

「わぁ!」

客席からどよめきが起きました。
それは、学校の生徒同士というの関係を超えたものでした。

「♪悲しい時には
そばにおいで
悩みがあるなら
話してごらん
(スキャット)」


自分の声は予想を超えて良く通りました。

20秒くらい後か・・マイクは戻りました。

その時、客席はもう1度わきました。


アンコールが来たのでもう1曲歌いました。

私は少し興奮気味で、

歌ってよかったー!

と言っていました。

※文中の歌詞は、1979.ある新聞の中学生読者のページに掲載されています。