サーです流れ星

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詩集の一編より、、



『 汲む (くむ ) 』 ー Y.Yに ー

作者:茨木 のり子



大人になるというのは

すれっからしになることだと

思い込んでいた少女の頃


立居振舞の美しい

発音の正確な

素敵な女のひとと会いました


そのひとは 私の背のびを見すかしたように

なにげない話に言いました


初々しさが大切なの

人に対しても 世の中に対しても


人を 人とも思わなくなったとき

堕落が始まるのね

落ちてゆくのを 隠そうとしても

隠せなくなった人を 何人も見ました


私は どきん とした

そして深く悟りました


大人になっても どぎまぎ したっていいんだな

ぎこちない挨拶  醜く赤くなる

失語症   なめらかでないしぐさ

子供の悪態にさえ傷ついてしまう


頼りない生牡蠣のような感受性

それらを鍛える必要は 少しもなかったのだな

年老いても 咲きたての薔薇

柔らかく外にむかって ひらかれるのこそ難しい




あらゆる仕事

すべての いい仕事の核には

震える弱いアンテナが 隠されている

きっと…


わたくしも かつてのあの人と

同じくらいの年になりました


たちかえり

今も ときどき その意味を

ひっそりと 汲むことがあるのです






お読みいただき、ありがとうございます✨


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