あら、今頃ごはん?

邪魔しないで。

 

 

さて

 

停めた車の中で、恐ろしく速い鼓動の音を聞きながら

頭の中を整理しようとした。

 

私は本当に、あの男の家に火を付けて。

もしかして、あの男を殺すのか。

もしかしたら、あの男の家族も殺すのか。

 

自分が痛めつけられてきたから。

そのために、長く続いてきた他人の人生を終わらせるのか。

もしかして、罪も無い人までも。

 

考えていなかった。

ただ、強い憎しみと怒りに任せて、感情が向かう方へ走っていた。

 

 

 

世の中に起こっている、数えきれない事件。

 

理不尽にも命を奪われる人

痛ましさ

理不尽さ

悔しさ

恨み

悔やみ

 

ニュースを見るたびに心が捻じれるような思いをしていたのに、

私は、私が犯人になろうとしていた。

 

本当は、金属バットで襲うことも考えていた。

勤めていた会社の野球チームから、いらなくなったバットを譲ってもらっていた。

これで気が済むまで殴れたら、と握りしめたこともある。

 

義理兄を叩きのめしたとしたら。

私はこの先を、清々しくスッキリと、前を向いて生きるのだろうか。

 

相手の肉体を痛め付けることで、私の心の痛みは消えるのだろうか。

 

やり場のない思いを晴らすために、単に暴力を振るいたいだけじゃないのか。

憎い、だから殴りたい。

悔しい、だから痛めつけたい。

 

それに、とらわれていた。

ほんの少しだけ先の未来しか見えなくて、その先は真っ暗だったのに。

 

いつの間にか、夕暮れの時間が始まっていて。

どこかの家の夕食の匂いにがしてきて、とてつもなく寂しく泣きそうになった。

 

私は、義理兄の家に火を付けるのも、

金属バットで襲うこともやめた。

その欲望を、苦もなく捨てた。

 

自分がどうやって生きていくのかはわからない。

けれど義理兄の身体を痛めつけても、私の過去は変わらない。

 

心も、晴れない。