さて
居間の扉を開けると、父はやはりテレビをみていた。
私は正座をして床に手をつき、定型文を読むように父に謝った。
「お父さん、ごめんなさい。」
父はちらっと私の方を見、低い声でボソッと
「はい」
と言っただけだった。
私は、これでやるべきことは終わった、と思った。
普段からろくに子どもと向き合わない父への謝罪など、
形だけ、ポーズだけで十分だった。
父は私たち子どもにいつも直接何も言えない。
何か言うのは、夏休みだからっていつまで寝てるんだとか、
だらだらしてるなら自分の布団くらい干せとか、そんな小言ばかりだった。
正確に言うなら、言うべき時に、その場に合った言うべき言葉をうまく見つけられない、
つまり気の回らない、不器用な人間なのだと思う。
父の年代、昭和ひとケタ生まれの親父には多かったかも知れない。
自分は仕事ばかりで、子どもの躾は母親に丸投げする。
子どもが悪いことをすれば、「お前の躾が悪いせいだ」と妻に怒る。
ドラマに出てきそうな、典型的な「熟年離婚されるタイプ」だ。
(実際、熟年離婚されているし)
でもこんな父でも、私が10年余りも自分の連れ子から性虐待を受けていたと知れば、
少なからずショックを受けるだろうし、何か言ってくれるだろうと思った。
父からの、初めての父親らしい
慰め、労り、励まし、そして謝罪の言葉を。
今夜、父は母から全てを聞くのだろう。
明日の朝顔を合わせたとき、父はなんと言ってくれるのか。
私はその日一日のことを、
不安と安堵の入り混じった思いで振り返った。
万引きで捕まったことが学校にばれたらどうしようとか、
進学に響いたらどうしようという心配もあったが、
やっと義理兄のことを親に打ち明けることが出来たという、
言いようのない安堵感があった。
ひとりで静かに、ベッドに横たわって。
天井の不規則な模様を見つめながら、夜を過ごした。

