★昼の部★

摂州合邦辻

継母が義理の息子を愛してしまう泥沼ドラマかと思いきや。
観る前の予習で、玉手御前が20代そこそこのまだまだ若い女性だという情報を目にして、
そこを念頭に置いて見るのと、
そうではない、親子ほど年の離れた関係性で見るのとでは印象が違うなと思いました。
素人的にはさすがにもうちょっと前段の話から見たいところではあります。
菊之助さん玉手の美しさ、艶かしさ、凄みは勿論、
歌六さん合邦道心の役としての生真面目さが印象的でした。
玉手の台詞で「妹背の契を〜」というのがあって、そんな言葉があるのかと勉強になりました。


沙門空海唐の国にて鬼と宴す

え〜全然楽しかったけどわたしは。
昼も夜もこれ以外はガチガチの演目なのでこれくらいのテイストで私は助かりました。
坊主頭問題を解決できれば余裕で宝塚でも出来そうな雰囲気。
その場合米吉さんの玉蓮がトップ娘役ポジということになろうか。

満月と牡丹を背景にして推し様の阿倍仲麻呂が一人舞台に現れた時の美しさよ。
引きのアングルで舞台写真にもなっておりました。
お髭もお似合いでした。
楊貴妃を巡る過去の出来事を語るストーリーテラーのような感じでしたが、
語り部から一転その時代の登場人物になる瞬間の切り替えが新鮮。
そして上手い。
高階遠成との二役で、最後に高麗屋三代が揃う有難さ。

幸四郎さんの空海はどこまでも陽気で先月に引き続き飄々としてどこか掴みどころがなく、
天才肌で変わり者なところが空海っぽいなと思いました。
歌昇さん白楽天に漂うインテリナルシスト感に
吉之丞さん橘逸勢の若々しさ(歌昇さんと役が逆でも良かったような…)、
そして何と言っても歌六さん丹翁と又五郎さん白龍の主役級のお働きぶりと流石の存在感。
素晴らしかったです。
雀右衛門さん楊貴妃が現れた時の幻想的な美しさには息を呑みました。
お陰で月曜日の中国ドラマの録画予約を失念していたことを思い出しました。
最終回だったのにやれやれ。


★夜の部★

妹背山婦女庭訓

久我様ー!✨✨えーんラブえーんラブ✨✨
美しすぎる…
尋常じゃない…
なんなんだあの透明感と高潔さは…
恋と忠義に命を散らす前髪の貴公子…似合いすぎか…

机に伏す仕草、柄杓で手を濡らす様子、枝から葉を一枚手に取り文字をしたためる動き、
何もかもどの瞬間も美しくて、
川を隔てて交わす雛鳥との初々しいやり取りが眩しくて、目が眩みそうでした。

後半は、白装束で静かに切腹に臨もうとする久我之助の少年の面持ちにはっとさせられ、
切腹までの所作を見守る劇場の静寂に息を呑み、
腹に刀を突き立てたまま耐える久我之助の傍で
桜の枝を流したから安心しなさいと寄り添う松緑さん大判事の父性が大きくて優しくて温かくて、
そしてそれを聞いて微かに安堵する久我之助の雛鳥への想いに胸が熱くなり、
川を隔てた向こう岸から聞こえる絶叫に驚いて何かを察したその表情に嗚呼…となり、
あとはもうめくるめくように露わになる悲劇に、心の全てが呑まれていくばかりでした。
若い二人の悲しすぎる再会、そして嫁入り、祝言…
切なすぎるけれど、死して結ばれたカタルシスが確かにありました。

左近さんの雛鳥とともに同世代二人の若い実年齢が物語に真実味を与えているのは確かですが、
シンプルにお芝居がとてもとても良かったです。
技術的には二人とも勿論まだまだかもしれないけれど、
二人ともまだ10代…お釣りが来る素晴らしさでした。
玉三郎さん定高と松緑さん大判事に見守られ導かれながら
そのふっくらとした蕾を開き始めた二人のこの瞬間に立ち会うことができて本当に幸せでした。
これからのお二人が楽しみすぎます。

にしても、この妹背山婦女庭訓という演目、
お三輪の三笠山御殿はもはや残酷レベルですけど、
悲劇が容赦なさすぎてシェイクスピアもおったまげに違いない。
でもこの残酷なまでの悲劇を美しいとすら思わせる、凄い芝居だなぁ…

古本市で手に入れた平成3年刊行の歌舞伎名作事典なるもののこの演目のページに、
「雛鳥▷中村松江 久我之助▷中村福助」と書かれて掲載されている白黒写真の久我様がまた美しくて
どなただろうと思ったのですが、梅玉さんぽいな…
納得。
ちなみにこの項の解説を担当しているのが渡辺保とあってそれはそれでびっくりでした。




勧進帳

いつかは観てみたいと思っていた幸四郎さんの弁慶と染五郎さんの義経。
こんなに早くその夢が叶うとは!

はぁだからもう義経美しすぎるってば…
花道の出からして拝みたくなる美しさ、神々しさ、尊さでした。
戦の天才に違いなかった。
静謐な中に滲み出る軍神オーラと高貴さが眩い。
でもふとした瞬間にどことなく悲劇が翳るのもまた奥ゆかしい。

勿論!幸四郎さん弁慶も菊之助さん富樫もカッコよかった〜。
次はどなたが弁慶をやるかしら。




久我之助、義経とこれでもかというくらい貴公子月間だった9月が終われば、
10月は光の君をやるって言うんだからもうどんだけ!
そしてわたくし光源氏のファンミとやらに行けるらしい…
どういう世界線ですかそれ。



なお、築地で食べた銀ダラ定食が美味でした。(唐突)
ご飯山盛りでこんなに食べられないと思いながら米一粒も残さず却って余力を残す、
大体最近いつもそんな感じ。