2011年。ポニーキャニオン。
  マッコイ斉藤監督。
 愛すべきガールズ・ロックバンド、日本マドンナのギタリスト、まりな氏のブログが消えてしまった。『中原昌也 作業日誌2004→2007』以来の衝撃だったあの文章の連なりは保存されてはいないのだろうか。
 つい最近発見して、いっきにほとんど読んでしまったので、まあいいか。
 単行本化するための準備のために削除されたのなら納得できる。定価3,000円くらいまでならすすんで買い求める。
 あれは新世紀の『二十歳の原点』となりうる感動的なものだった。
 二十歳を過ぎたばかりの娘くらいの年齢の女の子が、何かにつけては「死にたい」とつぶやき、ハイロウズの「即死でたのむぜ」という歌詞を熱心に書き写していることを心配しながらも、一方で生きるはげましを受けていたとは恥ずかしいことだ。

 しかし、幼いころから明治大正昭和の日本文学を切迫して読んできたらしい知性による文章の強度には年齢は無関係だ。ネガティブな自分の感情を率直に書きつづるクールな姿勢には自分を対象化した果てのユーモアがあった。
 若いうちから読書なんてするべきじゃなかった、自分をゴミくずだと断定する文を読んで、こんな知性が手に入るならもっと本を読むべきだったとうらやましくさえ感じたものだった。
 しかも、まりな氏本人は自分の才能に無自覚とも見える点(すべて理解した上での戦略の可能性もあるが、)がよりすごみを際立たせていた。
 公園でAKBを卒業したばかりの前田敦子と出会って会話をしたという妄想と夢とが混じったような文章を読んだときに、「これは全く、文学そのものではないか、新鋭の現代詩人の登場だと言われればその通りだ。」と思ったら、数日後にブログが消えてしまった。

 そんなまりな氏もある程度はレスペクトをしているらしい(『怒り新党』を熱心に見ている記述があった記憶がある)有吉弘行のお笑いモキュメンタリーの第3作目。

 いつの間にか若者のちょいカリスマ的な地位を手に入れたことには、このモキュメンタリーシリーズのマッコイ斉藤やデンジャラス安田などと共同で作り上げたメディアへの姿勢や仕かけも影響しているように見える。
 しかし、まりな氏が心酔しているのはビートたけしであるように、20世紀のビートたけしが持っていたカリスマ性ほどには極端なものにならないよう配慮をしているところが有吉のずる賢さだろう。
 決して映画監督や作家などにはならず、そういう姿勢、態度を鼻でせせら笑う。
 十代や二十代の若者から支持されるようなダークな面は保持しながら、テレビでレギュラー番組をたくさん持てるような通俗性も確保する。
 尊敬されているようで小ばかにされている。
 もっとも金もうけには最適なポジションを手に入れようとする有吉のメディア戦略はヨーゼフ・ゲッペルスが現代によみがえったようなおそろしさも少しある。
       公式サイト
映画の感想文日記-ariyoshi01
 だんだんつまらなくなってきたお笑いモキュメンタリーの第3弾は、北海道を舞台にほとんど惰性で作られたような気の抜けた(ように見える戦略が隠されている)ドキュメンタリーになり下がった。
 冒頭で有吉本人により、「テレビのバラエティ番組の司会を何本も持ち、一流芸能人の称号も手にした。すでに億にせまる預金残高もあるが、まだ安定しているとは言えない。
 長続きするためには、嫌われ者であることが重要なカギだ。そのための悪意に満ちたモキュメンタリー・シリーズなのだ。」
 としたり顔で語られる。真意はどこにもない、さがすだけ無駄だ、というところまでいってしまったこのシリーズの最新作を見ながら、
 「『ブレアウィッチ・プロジェクト』や『パラノーマル・アクティビティ』に対抗できる日本映画はまだ存在していないが、あるとすればこのシリーズだろう。」と思った。
映画の感想文日記-ariyoshi02
 『ジャッカス』シリーズやいくつかのアメリカ製お笑いテレビ番組(あまり知らない)の影響を感じさせるマッコイ斉藤の演出がそれほどさえているわけでもないのに最後まで見られるのは、有吉の口調の小気味よさの力が大きいようだった。

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