2010年。「ヒーローショー」製作委員会。
井筒和幸監督・脚本。
よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属の「ジャルジャル」主演による青春バイオレンス映画。
今年見るつもりでいて、見逃してしまった映画は数多いが、見逃してもっとも後悔した映画のひとつがこの『ヒーローショー』だった。
近年の井筒監督のパッとしなさ(『パッチギ!LOVE&PEACE』も『サディスティック・ミカ・バンド』もいまいちだった)から、絶対に見に行くという意欲はなかったせいもあった。
しかし、これは絶対に見に行っておくべき映画だった。これまでの作風から判断すると、破綻しているようにも見えるが、これは監督本人が「ニューシネマや。」と言っているとおりに、物語の調和や整合性などを気にせず、行き当たりばったりに近い感覚で作られている。
井筒和幸ミーツ・ガス・ヴァン・サント&ヴィム・ヴェンダース&ジョナス・メカス&モンテ・ヘルマンといった雰囲気の映画になっている。
ガス・ヴァン・サントの『パラノイドパーク』を連想した。あの映画に匹敵する強度を持っている。つまり最高にすばらしい。
後半のロードムービーのエピソードはモンテ・ヘルマンの『断絶』や、ヴィム・ヴェンダースの『さすらい』を想い出した。あの映画と比較しても見劣りしない。つまり世界水準の最高傑作(?)に近い。
アメリカン・ニューシネマ世代の井筒監督だが、この『ヒーローショー』はアメリカン・ニューシネマの名作と呼ばれるいくつかの映画より明らかにすぐれている。
少なくとも『真夜中のカーボーイ』、『ファイブ・イージー・ピーセズ』、『イージーライダー』よりは高いレベルの映画だろう(個人的評価としては)。
ただし、映画は最終的にはそれを見ることで、観客が作り上げて完成させるものなので、だからどうした、と言われればそれでおしまいだが、井筒監督のフィルモグラフィーの中でも特異な位置を占める作品として語り継がれてゆくことは間違いない。
劇場公開時にこれを見た知人は「後半がだるい。」「大したことない。」などと言っていたので、それがおそらく世間での一般的な評価なのだろう。
しかし、彼らはジャルジャルがどんな芸風のお笑いなのかを知らないから、そんなのんきなことが言えるのだ。そもそもお笑い芸人に大した関心を抱いていない映画ファンごときに、この映画を語る資格は存在しないに等しいと言っても言い過ぎではないはずだ(涙)。
ジャルジャルのコントを見れば、井筒監督がいかに演出力によってふたりを陰惨な青春映画の登場人物に変異させたかが見えてくる。
ニコラス・レイの『理由なき反抗』などと並べて見るべき映画の中のもっとも映画らしい映画。エンターテインメント性とアート性とのバランスの悪さも『理由なき反抗』によく似ている。
公式サイト ジャルジャル公式サイト
直接にはマーチン・スコセッシやブライアン・デ・パルマなどの影響によって独自の暴力描写を作り上げたと思われる井筒監督だが、今回は全盛期を上回る勢いで暴力描写にさえた演出と編集が見られた。
特異な傑作に仕上がった『ヒーローショー』だが、これは井筒監督やスタッフが戦略的に計算してそうなったわけではなく、自分たちでも収拾がつかなくなって、混乱したままに半ば放り出した格好で無理やりまとめあげたのが、たまたま傑作になってしまった、という映画によくあるマジックの結果だろう。
よくぞ本当に悪そうな顔を集めたな、と思わせるキャスティングのうまさが光る。
特に議員のボンボンで汚れ商売をしている拓也(林剛史)、鬼丸兄弟(阿部亮平とミルクウラウンのボケ担当のジェントル)はすさまじいリアリティがあって、「こんなやつ、街に絶対いる。」と思わせる顔力があった。
ミルククラウンのジェントルは静かに人を殺すことのできる殺人鬼のリアリティを持っているので、また別の映画で見てみたいような気もする。
やはり主演のふたり(後藤淳平と福徳秀介)のすばらしい熱演によって、この世紀の大傑作(?)は生み出されたことは疑いようがない。一応は高学歴のふたりだが、とても高学歴には見えないはまり度合いの深さが、他の出演者やスタッフのすぐれた作業を誘発させたものだと思われる。
映画の感触は逃避行ものということもあり、フリッツ・ラングの『暗黒街の弾痕』、ジョセフ・H・ルイスの『拳銃魔』に近い。B級娯楽映画だが、後年になって芸術作品扱いされるようになった映画に似ているということは、この映画も後年、アート映画のマストアイテムと化す可能性は高い。
井筒監督本人はそんなことを望んだり喜んだりはしないだろう。
テレビで見ると毒舌の偏屈おやじにしか見えない井筒監督だが、1度、グラビアアイドルばかりが出演している番組で、「お休みの日にDVDで見るおすすめの映画を教えてください。」と言われて、「ドン・シーゲル監督の『突破口』という映画。最高やで。映画とはこういうもんかと何度見ても感動する。」と熱弁をふるっていた姿には、なぜそんな犯罪サスペンス映画の隠れた傑作を?と思い、スタジオの空気を気にしないにもほどがある、と笑ってしまったことがあった。
井筒和幸監督・脚本。
よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属の「ジャルジャル」主演による青春バイオレンス映画。
今年見るつもりでいて、見逃してしまった映画は数多いが、見逃してもっとも後悔した映画のひとつがこの『ヒーローショー』だった。
近年の井筒監督のパッとしなさ(『パッチギ!LOVE&PEACE』も『サディスティック・ミカ・バンド』もいまいちだった)から、絶対に見に行くという意欲はなかったせいもあった。
しかし、これは絶対に見に行っておくべき映画だった。これまでの作風から判断すると、破綻しているようにも見えるが、これは監督本人が「ニューシネマや。」と言っているとおりに、物語の調和や整合性などを気にせず、行き当たりばったりに近い感覚で作られている。
井筒和幸ミーツ・ガス・ヴァン・サント&ヴィム・ヴェンダース&ジョナス・メカス&モンテ・ヘルマンといった雰囲気の映画になっている。
ガス・ヴァン・サントの『パラノイドパーク』を連想した。あの映画に匹敵する強度を持っている。つまり最高にすばらしい。
後半のロードムービーのエピソードはモンテ・ヘルマンの『断絶』や、ヴィム・ヴェンダースの『さすらい』を想い出した。あの映画と比較しても見劣りしない。つまり世界水準の最高傑作(?)に近い。
アメリカン・ニューシネマ世代の井筒監督だが、この『ヒーローショー』はアメリカン・ニューシネマの名作と呼ばれるいくつかの映画より明らかにすぐれている。
少なくとも『真夜中のカーボーイ』、『ファイブ・イージー・ピーセズ』、『イージーライダー』よりは高いレベルの映画だろう(個人的評価としては)。
ただし、映画は最終的にはそれを見ることで、観客が作り上げて完成させるものなので、だからどうした、と言われればそれでおしまいだが、井筒監督のフィルモグラフィーの中でも特異な位置を占める作品として語り継がれてゆくことは間違いない。
劇場公開時にこれを見た知人は「後半がだるい。」「大したことない。」などと言っていたので、それがおそらく世間での一般的な評価なのだろう。
しかし、彼らはジャルジャルがどんな芸風のお笑いなのかを知らないから、そんなのんきなことが言えるのだ。そもそもお笑い芸人に大した関心を抱いていない映画ファンごときに、この映画を語る資格は存在しないに等しいと言っても言い過ぎではないはずだ(涙)。
ジャルジャルのコントを見れば、井筒監督がいかに演出力によってふたりを陰惨な青春映画の登場人物に変異させたかが見えてくる。
ニコラス・レイの『理由なき反抗』などと並べて見るべき映画の中のもっとも映画らしい映画。エンターテインメント性とアート性とのバランスの悪さも『理由なき反抗』によく似ている。
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特異な傑作に仕上がった『ヒーローショー』だが、これは井筒監督やスタッフが戦略的に計算してそうなったわけではなく、自分たちでも収拾がつかなくなって、混乱したままに半ば放り出した格好で無理やりまとめあげたのが、たまたま傑作になってしまった、という映画によくあるマジックの結果だろう。
よくぞ本当に悪そうな顔を集めたな、と思わせるキャスティングのうまさが光る。
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やはり主演のふたり(後藤淳平と福徳秀介)のすばらしい熱演によって、この世紀の大傑作(?)は生み出されたことは疑いようがない。一応は高学歴のふたりだが、とても高学歴には見えないはまり度合いの深さが、他の出演者やスタッフのすぐれた作業を誘発させたものだと思われる。
映画の感触は逃避行ものということもあり、フリッツ・ラングの『暗黒街の弾痕』、ジョセフ・H・ルイスの『拳銃魔』に近い。B級娯楽映画だが、後年になって芸術作品扱いされるようになった映画に似ているということは、この映画も後年、アート映画のマストアイテムと化す可能性は高い。
井筒監督本人はそんなことを望んだり喜んだりはしないだろう。
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