2008年。「ひゃくはち」製作委員会。
  森義隆監督。
 甲子園常連組の高校野球の名門校の野球部を舞台に、補欠要員にしか過ぎない部員二人を主人公にして、ベンチ入り最後の20番目の席を目指す姿を描いた、青春映画の傑作。

 製作のクレジットに竹内力の名前を見たときに、「これは期待できないな。」と思ってしまった自分の偏見に満ちた愚かさがこっけいに思われたほどに素晴らしい映画になっていることに驚いた。
 監督はこれが初めての映画の演出らしく、特に目立ってすぐれた点が見られたわけではなく、
 どちらかといえば、泥臭い印象さえあるもので、出演している俳優も、オーディションで選ばれたアマチュアではないか、と思ったほどに、地味に現役の野球部員みたいにしか見えない。

 何が素晴らしかったのだろう、と考えても明らかにすぐれた点はなさそうに見えるが、出演俳優陣のチームワークが素晴らしかったのか、全篇にはつらつとした、青春そのものと呼ぶしかないような空気が満ちあふれていて、
 最後に主人公が叫ぶ、感動的でも何でもない平凡なせりふ、「俺はやっぱり、野球が大好きだ。」という言葉が、輝きを持った言葉に感じられたのは、
 野球という言葉が青春の形象化として、何にでも交換可能な高みにまで到達しているように思われたからで、「野球」を、「サッカー」、「柔道」、あるいは「数学」、「英語」といった言葉に置き換えても良いように思われ、それ以外の言葉、「テレビゲーム」、「恋愛」など何でも良い、とさえ思えてきた。

 現実の高校の野球部員らしくリアリティ重視で、エロな妄想シーンもあったりするので、PG-12指定を受けているが、(他にも「タバコは高校球児のサプリメントさ。」と言って、部員のほとんどがタバコを吸っている場面など、教育映画にはなりそうにない場面も多い。)、地区予選から、甲子園出場が決定し、ベンチ入りの20名が発表されるまでの過程が、いろいろな悩みもまじえつつ、テンポ良く描かれて、
 久しぶりに、本当にこの映画を見逃さなくて良かった、と思われる映画に出会うことが出来た偶然(この映画は時間調整のために見ただけのものだった)に感謝したいような心持ちになったことだった。
          公式サイト
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 雅人(斎藤嘉樹、新垣結衣主演の『フレフレ少女』にも重要な役どころで出演するらしい)と、ノブ(中村蒼、『恋空』にも出ていたらしい)とは、試合出場は絶望的だが、ベンチ入りは当落線上にいる、という微妙な位置にいる部員だった。
 二人は親友だが、やがて二人が対立をせざるを得ないような事態が発生する。
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 対戦相手の高校のピッチャーの球種のサインを調査してくる、という雑用ばかりをやらされる補欠部員たちの、それぞれの想いがリアルに描かれる。
 ベンチ入りが絶望的だと悟った仲間に最後にカッコいい思い出を与えてやる、という泣かせるエピソードもあった。
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 ベンチ入りの20名が発表される緊張の瞬間。雅人とノブとは明暗を分ける結果となってしまい、自宅に電話する場面はちょっと感動的なものだった。
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 補欠要員といっても、名門野球部なので、それぞれにガールフレンドがおり、雅人にいたっては、美術に造詣の深い知的な女子大生と交際し、見事にセックスにまで持ち込むことに成功する。
 雅人は女子大生の影響でダダイズムや、シュール・レアリスムの文献を読むようになる。
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 他に『サッドヴァケイション』の高良健吾、『地下鉄に乗って』の北条隆博、コーチ役で桐谷健太、新聞記者役で市川由衣(水着のサービス・ショットあり)、監督役で竹内力、
 雅人の父親役で光石研、その他、二階堂智などいろいろ多数出演している。
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 「ひゃくはち」とはボールの縫い目の数が108あることから、高校球児のぼんのうの数として説明されていた。

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