1931年。フランス。"TARIS".
  ジャン・ヴィゴ監督。
 1931年に400メートル自由形で世界新記録を樹立したフランス代表の競泳選手ジャン・タリスの速さの秘密を解明しようとした短編ドキュメンタリー映画。
 世界新記録といっても、記録は4分17秒と、現在の記録が3分40秒くらいであることと比較すると、かなり遅い(代表選手に選ばれることもないレベルだろうと思われる)が、
 ジャン・タリスは当時、25種目の水泳競技でフランス国内記録の保持者で、800メートルの世界記録も持っていたらしく、フランスの国民的英雄のような存在だったらしい。

 しかし、このドキュメンタリー映画は、若くして亡くなった天才映画監督ジャン・ヴィゴ(1905-1934)の演出によるもので(撮影当時は26歳)、まともなドキュメンタリー映画として見ると、変てこな印象が強く、演出や編集の意図も、とらえどころがないような不思議な作品になっている。
 
 一応は、ジャン・タリス自身のナレーションで、ターンをするときのテクニックや、水泳上達のために必要なことなどが語られてはいるが、カメラはジャン・タリスが泳ぐときに水面が揺れ動く様子や、水しぶきの美しさの方に注意を払っているように見える。
 当時としては画期的だったらしい水中撮影も使われているが、ジャン・タリスの速さの秘密を解明するためではなく、水中で寝たふりをしたりして、おどけて見せるジャン・タリスの姿を映したりと、ふざけているが、どういうつもりでこんな演出になったのかが、いまひとつわからない。

 最後には、なぜかスーツ姿になったジャン・タリスがプールの上を歩いて立ち去るような重ね撮りのシーンになり、帽子をとって別れのお辞儀をするジャン・タリスの姿で映画は幕を閉じる。
     IMDb
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 ジャン・タリス本人も悪ふざけが好きな人物だったようで、まじめに泳いで見せているかと思うと、カメラに向かって微笑んだり、いろいろ変なこともやっている。
 ときどきスローモーションになる瞬間に音が消えて、水面の揺らぎや水しぶきが美しく映し出されるのは、『新学期 操行ゼロ』 での羽根ぶとんの羽根が舞い上がるシーンと共通している。
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 素早いスタートの方法の解説は今となっては古くさいもので、水泳の科学的な研究が進む以前の、のんびりした時代だったことを感じた。
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 タリス本人よりも水の美しさに焦点が当てられたような撮影が目立つ。照明も水面の動きがよく見えるようなものになっている。
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 今では競技種目にない横泳ぎとか、名前も聞いたことのないような泳法がいろいろあって面白かった。そのすべてでジャン・タリスは記録を保持していたことになる。
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 スーツを着てプールの上を歩いているように見せた不思議なラストシーン。単なる思いつきでふざけているのか、何か狙いがあるのかは全く理解できない。
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 わが競技人生に悔いなし、みたいなことを言って盛大な拍手喝采を受けるニュースフィルムが特典映像にあったので、国民的スターだったのだろう。
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 ジャン・タリスは遠泳を得意としていたらしく、セーヌ川横断レースで2時間弱の記録で、他の選手に数十分の差をつけてゴールしていた。水に入っているときは幸福そうな顔をしている。
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