2007年。アメリカ。"JUNO".
ジェイソン・ライトマン監督。
公開初日(6月14日)からにぎわっていた映画らしいが、見てきた人の話を総合すると、「アメリカのフォークソングを聴いたときのようなもどかしさを感じる映画」というような印象らしい。
実際に見てみたら、やはり、「英語をもう少しちゃんと勉強しておけばよかった。」と思ったものの、時すでに遅し、だった。
映画の全編にアンチ・フォーク運動(ニューヨークを拠点におこなわれたアコースティック・ギターだけを使ってパンク・ロックする反フォークのフォーク・ソング運動)のモルディ・ピーチズや、そのメンバーだったキミヤ・ドーソンの音楽が使われており、歌詞が重要な要素を占める音楽なので、これは英語を理解できない者には、「別に見なくてもけっこうですよ。」と言っているようなもので、ちょっとくじけた。
しかし、主題歌として使われているモルディ・ピーチズの曲はなかなか良かった。(ボブ・ディランの曲を歌詞を理解せずに、なかなか良かった、という程度の「なかなか良かった」という意味。)
しかも、この映画の言葉づかいはアメリカの高校生の間で流行したらしい「ジュノ語」と呼ばれる辞書にはのっていない勝手に作った言葉が多く使われているらしく、ジェイムズ・ジョイスの翻訳不可能な『フィネガンズ・ウェイク』を無理やり翻訳した本(翻訳家として名高い柳瀬尚紀氏によるものだったが、数十ページ読んで、敬して遠ざけたままにしてある)があったが、
あれと同じようにわけのわからない字幕だったら、疲れるな、と思ったら、異常にわかりやすい字幕になっていて(字幕担当者の葛藤のようなものは、かすかに感じ取れた)、『フィネガンズ・ウェイク』をわかりやすく翻訳したら何の意味もなくなるのと同様に、
この映画を字幕で見ている外国人がいる、とアメリカの生意気な高校生が知ったら、大笑いするだろう、と思われるほどには、意味のないことだったのかも知れない、とは思った。
しかし、この映画は基本的にはわかりやすい映画で、アンチ・フォークの姿勢と似たところもあり、良い人たちばかりが出てくる物語だったが、ダメなものには、はっきりとダメだと言おうというところは一貫している。
5年ぶりくらいにソニック・ユースの「スーパースター」(カーペンターズのノイズっぽいカバー曲)が流れるのを聞いて、「やっぱりこれは名曲だな。」などと思っていたら、ソニック・ユースは、ニルヴァーナやメルヴィンズなどと並列されて、「ダメな大人が聴く音楽」として扱われているのだった。
時代は変わる、ということを実感した映画でもあった。
"FUCK BUSH!"(くたばれブッシュ!)と並んで、"SONIC YOUTH SUCKS !"(ダセえんだよソニック・ユース!)という明確なメッセージは伝わったので、プロフィール欄から「好きな歌手:ソニック・ユース」というのを削除しようと思ったことだった。
IMDb
公式サイト(日本)
16歳で妊娠してしまったジュノ(『ハードキャンディ』
での強烈なイメージがあったエレン・ペイジが好演)は中絶手術をやめて、子どもを産んだ後に養子に出すことにする。
無責任なお子さまのようで、実際はジュノがもっとも賢明で、愛とは何かを知っている良識のある大人だという風に見えてくるところが素晴らしかった。
義理の母親ブレン(アリソン・ジャネイ、超音波検査のときのせりふがカッコいい)と、父親マック(『スパイダーマン』シリーズの編集長役のイメージがあったJ・K・シモンズが素晴らしい)の、妊娠を知ったときの反応と、その後の対応にも何か新しい家族のモデルを見るような新鮮さがあった。
ジュノを妊娠させたのは、『スーパーバッド 童貞ウォーズ』
でのエバン役とほとんど同じキャラクターで登場したマイケル・セラ演じるポーリーだった。物事を真剣に考えているのかよくわからない頼りなさそうで、実はしっかり考えてもいそうなキャラクターをうまく演じていた。
妊娠・出産後に恋人同士になる、という新しいのか古いのかわからない愛情の物語が提出される。
パティ・スミスを尊敬するというのは理解できるが、ランナウェイズとイギー・ポップ&ストゥージズというのはジュノのキャラクターには合わないような気もした。
ジェニファー・ガーナーの妊娠できないためにテンパッた女性の演技が、異様にリアリティがあったように見えた。
ジェイソン・ベイトマン演じるダメ大人は、監督のジェイソン・ライトマンが自分自身を投影させているようにも見えたが、「ダリオ・アルジェントも良いけど、ハーシェル・ゴードン・ルイスもすごいよ。」という映画マニアには痛々しさを感じずには見ることのできない場面もあって、他人事とは思えないつらさがあった。
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