2007年。メディアワークス/MGP/サテライト。
   辻裕之監督。
 Vシネマは全くと言っていいほどに見なくなってしまったので、最近の情況がどうなっているのか、よく知らないものの、ハリウッドと同じく、かなりのネタ切れ状態にあるように見える。
 最近は実録路線が増えたが、何かつまらなそうで見ようという気にはならない。
 かつて、黒沢清監督と哀川翔とが組んでいた『勝手にしやがれ』シリーズは面白かったので、見ていた。

 この作品もVシネマのネタ切れを反映したもののようにも見えるが、ちょっと面白いのは、VシネマがVシネマについて自己言及を始めたような物語になっているところで、
 1950年代に、テレビの普及やスタジオ・システムの崩壊などによって、「映画は死んだ」と言われた頃に、ヌーヴェルヴァーグの映画作家たちが、映画についての自己言及をした映画を作り始めた情況と似ているようにも見える。

 ヌーヴェルヴァーグは、死にかけた映画に、とどめを刺して楽に死なせてやろうという試みだったようにも見えるが、逆に死の間際にあったハリウッドがヌーヴェルヴァーグの面白さで息をふき返してしまい、21世紀の現在まで、どうにか産業として成立してしまった、という風にも思える。
 「映画は死んだ。」と言われた1950年代に、映画はそのまま死んでしまっていれば良かった。
 そうすれば、人々は映画など見ずに、読書や、スポーツや、その他の有意義なことをして、文化も今よりすぐれたものになっていたのかも知れない。などと時々考えたりする。

 そういうことを考えさせられるほどには、このVシネマ、『トンパチ』は面白かった。
 若い頃に演劇を目指して野心もあった青年、佐藤一(小沢和義)は、その後20年間、全く売れない俳優のままに40歳を過ぎてしまい、ピンク映画の男優として、細々と生活する状態だった。
 ある日、演劇青年時代の仲間、ハチ(本宮泰風)と偶然再会し、ハチはヤクザになっていることを知る。
 苦しい貧乏暮らしの佐藤一は、ハチに誘われるままに、携帯電話のとばしのアルバイトを始める。
 役作りに凝ってとばしをしてゆくうちに、ハチは佐藤の演技力を見込んで、借金の取立ても依頼するようになる。
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 自宅の鏡の前で、『タクシードライバー』のロバート・デ・ニーロに成りきり、鏡に向かって、「俺に話しかけてんのか?」と言う佐藤。若い俳優ならまだしも、40過ぎのおっさんがこんなことをやっているのは、あまりにも痛々し過ぎて、失笑する場面になっている。
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 カジノバーで、すってんてんになったところに、偶然かつての演劇仲間、ハチが現れて、ヤクザになったことを告げる。携帯のとばしアルバイトを1度は断った佐藤だったが、貧乏さに負けて、仕事を引き受ける。
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 あるときは八百屋のおじさん、あるときはエリート・サラリーマン、あるときは新宿二丁目のお姉さん、など役作りにこだわって、携帯のとばしをしていると、佐藤には演技力がついてきた。
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 ヤクザに成り切った姿に感心したハチは、佐藤に借金取りを依頼する。あまりの役への入り込みように客はビビッて思わず所持金を全部渡してしまう。
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 離婚した妻と娘を連れて、初めて出演することが出来た一般映画を一緒に見に行く。ところが佐藤の出演シーンは、つまらないからとばっさりカットされていた。
 元妻が、「いいかげんにアダルトの仕事なんてやめなさいよ。娘が学校でいじめられるかも知れないから。」と言うと、佐藤が、「アダルト・ビデオとピンク映画を一緒にするな!ピンクはれっきとした映画なのだ!」と、たとえピンク映画でも、映画俳優だというプライドを示す涙ぐましい場面もあった。
 (『それでもボクはやってない』の周防正行監督、『叫』の黒沢清監督、『バッテリー』の滝田洋二郎監督、『光の雨』の高橋伴明監督、話題の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』の若松孝二監督などは、全員ピンク映画出身。)
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 酒が飲めないハチは実際は長年ヤクザをしていながら同僚たちにあざ笑われるダメヤクザだった。子分の神田(益子智行)とともに一発逆転を狙い、ライバルの手島が金庫に隠しているという5000万円強奪を狙う。
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 金庫は空っぽだった。手島(辻つん?)は金は銀行に預金してあるに決まっているだろう、と言うと、逆切れしたハチは手島を射殺してしまう。
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 返り血を浴びたまま、手には本物の拳銃を握りしめて、佐藤はオーディション会場に駆けつける。
 カメラに向かって拳銃を発射したところで作品は終了する。
 他に小沢仁志、遠藤憲一、森羅万象などが出演。
 『トンパチ2』が4月下旬に出るらしい。ちょっと楽しみにしている。
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