2007年。オフィス北野/東京テアトル。
 北野武監督・脚本・編集・主演。
 数多くの俳優や、俳優以外の有名人が出演するコメディ映画。全く笑えないコメディ映画というところは、『みんな~やってるか!』を思わせるところもある。
 前半の、伊武雅刀のナレーションによる、いま世間で流行している映画の流れに便乗して、映画製作をこころみながら失敗し続けるエピソードの部分は、かなりテンポが良く、快調に飛ばしながら楽しんで作っている雰囲気が伝わってきて、面白かったのが、
 岸本加代子、鈴木杏、井出らっきょなど意味不明の人物たちが出てくるようになってから、急にトーン・ダウンしたような印象がある。
 ギャグは、わざとなのか、ほとんど全部すべりっぱなしでかなりさむい空気をただよわせている。

もっとも力が入っていたように見える『ALWAYS 三丁目の夕日』 をおちょくったような、リアルな昭和30年代を描いたというエピソードには、実際に昭和30年代に製作された大島渚監督の『愛と希望の街』 のような救いようのなさと心なさが感じられて面白かったので、
 これだけでひとつの作品にしても良かったような気がした。
 いま、流行しているノスタルジーもの、純愛もの、CGだらけのもの、ホラー、などのジャンルすべてを否定するような悪意から、監督が感じているらしき、現在の日本映画に対する深い絶望感と、孤独のようなものは、かすかには感じられた。
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 北野監督と、それに似せて作ったマネキン人形がときどき入れ替わるところに、何か意図らしきものは感じられたが、全体として見ると、それも笑えないギャグの一部になっている。
 これをわざとそういう演出にしたのなら、この監督の悪意には相当のものがあるように見える。
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 一見、小津安二郎監督風のセットで展開される定年を迎えた男の物語。これも、カメラ配置や編集など、実はぜんぜん小津安二郎風ではないのも、わざとそういう風にしたのか、小津作品に興味がないからなのかはっきりしなくて、中途半端に思われた。
 せめてカメラの高さを小津風に床から30センチくらいの高さに固定してほしかったような気もする。
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 唯一の、劇場内で笑いが起こった、ラーメン屋で、蝶野正洋と天山広吉が客にプロレス技をかけるシーン。ここだけはおかしかった。
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昭和30年代の足立区を舞台にした、エピソードが、結局、一番印象に残った。
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 後半は、正直なところ、かなり退屈して、早く終わってほしいと願っていた。北野武監督作品は、調べて見たら全部見ていたが、こういう何とも判断できない感じは初めてのことだった。時が経過すれば、作品の評価も変わってくるのかも知れないが。
 本編が始まる前に上映される、カンヌ映画祭用に製作された『素晴らしき休日』という3分間のショート・フィルムの出来が期待させる感じのものだっただけに、ちょっと残念な印象が残った。
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監督・ばんざい! <同時収録> 素晴らしき休日
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サントラ, 池辺晋一郎
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