1944年、 "MINISTRY OF FEAR".
フリッツ・ラング監督。グレアム・グリーン原作。
 レイ・ミランド、マージョリー・レイノルズ、その他出演。
 精神科の病院を退院したばかりの男が、たまたま立ち寄った慈善バザーのケーキの重さ当てコンテストで、そこにいた占い師が教えた答えで重さを当ててケーキを手に入れたために、奇妙な影に付きまとわれ始める、という巻き込まれ型サスペンス映画の傑作。
 しかもこれは反ナチスの宣伝映画にもなっている。
 ロンドンを舞台にナチスのスパイが国務省の中枢にまで入り込んでいる恐怖を描いたスリラー映画、主演のレイ・ミランドという俳優がなかなかいい演技をする。怪しげな登場人物が次々に現れ、誰もが疑わしく見える。
 交霊会のシーンは幻想的で悪魔的な雰囲気もあって素晴らしい。全体に小道具や霧、影の使い方がすぐれている。
 さすがに、ナチスの宣伝大臣になったかも知れない人物が作った映画は格が違うということを見せつけるような映画。
 フリッツ・ラングの光と影をあやつるマジックのような技術は、すでに芸術の領域にまで到達しているように見える。この人物がもし、ヒトラーとゲッペルスの誘いをことわらずに宣伝担当になっていたら、ナチスドイツはもっと拡大していたのかも知れないとさえ思われた。
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レイ・ミランドとマージョリー・レイノルズとの恋愛が物語の中心でラストはやや突然過ぎる感じのコメディ風ハッピーエンドとなる。
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フィルム・ノワールには欠かせない魔性の女を演じるヒラリー・ブルック、後にMGMの重役夫人になったらしい。
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不気味で幻想的な交霊会の場面、印象的なシーンが多いのでまた見直したくなる。
紀伊國屋書店
フリッツ・ラング コレクション 恐怖省
グレアム・グリーン, 野崎 孝
グレアム・グリーン全集 9 (9)
 
グレアム・グリーン全集〈9〉恐怖省 (1980年)