グラン・トリノ | にゃ~・しねま・ぱらだいす

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ドコにもダレにも媚を売らずに、劇場・DVDなどで鑑賞した映画の勝手な私評を。

クリント・イーストウッド/グラン・トリノ
【監督】クリント・イーストウッド
【主演】クリント・イーストウッド、ビー・バン、アーニー・ハー、クリストファー・カーレイ
【オフィシャルサイト】http://wwws.warnerbros.co.jp/grantorino/

『許されざる者』『ミリオン・ダラー・ベイビー』などで古き良きアメリカ人像を丹念に描き、
最近ではS&Wよりメガホンを持つ印象が強いクリント・イーストウッド最新作。
前作の『チェンジリング』を名作だったが本作はそれ以上。洋画では今年一番かも。

朝鮮戦争の帰還兵でフォードの自動車工を定年退職したウォルト・コワルスキーは、
元来の頑固な生活が災いし、愛妻に先立たれた後周囲に邪険に扱われていた。
古き良きアメリカの姿を追い求める彼は、効率だけを追求する日本車を乗り回す息子達とも
折り合いが付かず、モン族が幅を利かせる街にも愛想が尽き、静かに暮らすことを熱望していた。

そんなある日、彼の宝物である愛車・1972年型フォード『グラン・トリノ』が狙われる。
犯人は同じモン族ギャング達に唆された、隣人の心優しい息子タオであった。
姉のスーの窮地を救った縁もあり、急速に一家と親しくなり心を開いていくウォルト。
やがてウォルトはタオを一人前の男にするために、面倒を見ていくこととなる。
そんな姿をみて面白くないギャング達は、タオへの攻撃をエスカレートさせていく-。

戦争の傷跡や人種差別など現代アメリカが抱える諸問題を隠そうとせず正面から描き切り、
それを一老人と若者の姿を通して今後の行く末を模索していく-映画の素材になりにくい
難しいテーマを見事に纏め上げた傑作。これだけ骨太でしっかりした脚本の物語は、
TVドラマの延長線上で映画を語るレベルの作品が多い昨今、傑出しているように思う。

例えば同じテーマを日本でドラマ化した場合は、おそらく第1話と2クール後では、
主人公の性格が180度変わってしまっているような安い人物像しか描けないだろう。
しかし本作品のウォルトは、様々な人物と関わり合う中で心境の変化は見られるが、
ウォルトはウォルト。仏頂面で無愛想な老人のままだ。70年以上生きてきた人間が、
わずか数週間関わった人達の影響で人格が変わるわけがない。
そんなチープな人生経験しか持ち合わせていないような人物が、極限状況の戦争や
人生の荒波の中を行き抜ける筈がない。時間が経っても駄目なヤツは駄目なまま。
人間は本質的にはまったく変わらないのだ。

この作品を最後にクリント・イーストウッドは俳優業を引退し、監督に専念するのだそうだ。
『ダーティ・ハリー』の勇姿を知るものにとっては寂しいことだが、その方がより沢山の
良質な作品を排出してくれる要因になるなら大歓迎である。この作品の成功で、
『ハズレのない次回作が楽しみな映画監督』として堅固な評価を確実にできたように思う。

万人にお奨めできるエンターテインメント性はないが、映画好きなら絶対見るべき。

【評価】
★★★★★