チェンジリング | にゃ~・しねま・ぱらだいす

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ドコにもダレにも媚を売らずに、劇場・DVDなどで鑑賞した映画の勝手な私評を。

チェンジリング

【監督】クリント・イーストウッド
【主演】アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ

『ダーティーハリー』シリーズのマグナム構えた姿より、メガホンの方がすっかり板についてきた
クリント・イーストウッド。オーラ漂う俳優時の彼とは正反対に、渋い素材ばかりをじっくり手掛ける
職人っぷりは今回も健在。その辣腕ぶりはA・ジョリーの新境地を開かせることに。

1928年、ロサンゼルス。
電話会社に勤務するクリスティンは、シングルマザーとして息子ウォルターと2人で暮らしていた。
しかしある日急な仕事を頼まれて出掛けた時を境に、息子は何処かに姿を消してしまう。
警察に捜索を依頼して5ヵ月後、ウォルターを保護したとの朗報が入る。
歓び勇んで再会の場所に駆けつけるクリスティンだったが、その子供はまったくの別人。
彼女はその場で主張するが、警察は『動揺しているので記憶が曖昧なのだろう』と取り合わない。
とりあえず共同生活を始めたが、数々の身体特徴などが発覚。思い違いではない数々の事実が、
彼女の意見を裏付けていく。しかし警察はまったく取り合わず、『精神異常』と病院へと移送してしまう。
賄賂・謀略が支配し腐敗しているロス市警に対して、クリスティンは徹底抗戦することを決める-。

1920年代に起こった残虐な事件を、実際の氏名や地名をそのままに再現したこの作品。
捜査手法や科学技術や確立されていない時代の話とはいえ、俄かに信じがたい異常な話である。
汚職に塗れた警察というのは現在でも題材としてありふれているが、『嘘をつく子供』というのが、
排他的な当時を象徴しているというか、荒廃した世の中であったことを示しているように思う。
皆、年齢に関係なく生きるために必死で、自分のことしか考えていなかった、考えられなかった。
そんな人の心まで腐らせていた時代が、実際あったのだ。しかしそれは対岸の火事ではない。
この国にもかつてあったし、これからこの先もないとも言い切れない。
経済は人の心まで不況に追い込むのだ。

もうすっかりオスカー監督として自分のスタイルを確立したクリント・イーストウッドは、
スターとして銀幕を歩んできた自分を恥じるように、アメリカの昔と闇を一貫して描き続ける。
絵作りもそれに呼応させるかのように意図的に彩度を落とし、全体を落ち着いたトーンで統一、
重厚な人間ドラマを客観的に、そして静かに淡々とカットを重ねていく手法を駆使する。
画面の中にいる人物たちは、その中で違和感を感じさせることがない。
それがショーン・ペンだろうとモーガン・フリーマンだろうと、そしてアンジェリーナ・ジョリーだろうと。

長く肉体派として活躍してきたアンジェリーナ・ジョリーだが、年齢的から立ち位置を変えたのか、
私生活の影響で変化が出てきたのか、強くそれでいてでしゃばらないという難しい役柄を好演。
ネームバリューで作品を引っ張るのではなく、芝居で牽引することができる新境地を開拓した。
将来はメリル・ストリープのように、コメディからアクション、文芸までこなすマルチな女優を
目指すのかもしれない。一昔前ならお笑いだったが、この作品後は信憑性が出てきたように思う。

概してクリント・イーストウッドの作品は2時間を超える大作が多い。
初期の作品にはダラダラとそれを実感させる作品が少なくなったが、本作品ではこれ以上
プロットやセンテンスを削れないギリギリまで削ぎ落とされた充実感がそれを感じさせない。
『本当の』映画好きには諸手を上げてお勧めできる間違いなく稀に見る傑作だと思う。


【評価】
★★★★☆