魍魎の匣の箱(初回限定生産)
【原作】京極夏彦
【監督】原田眞人
【主演】堤真一、阿部寛、椎名桔平、宮迫博之、田中麗奈、黒木瞳
【オフィシャルサイト】http://www.mouryou.jp/
個人的にはバイブルとも言える京極堂シリーズ。狂信的なファンも多い故、
鬼才・実相寺をしても酷評を浴びる結果となった前作の評価により、
まさかシリーズ化されようとは思いもよらず。でもやっぱり見なければ良かった。
忽然と映画界から姿を消したトップ女優・美波絹子の娘・柚木加菜子が鉄道事故にあい、
瀕死の重傷を負った。柴田財閥の遺産相続争いの渦中だったため、事件性を疑った
私立探偵・榎木津礼二郎と警視庁の木場修太郎は、別々に捜査に入っていく。
生死の境を彷徨っていた加菜子は美波絹子=陽子のたっての希望で、旧知の仲である
美馬坂の研究所に搬送される。それは謎の巨大な匣型の建物であった。
その頃、巷では美少女ばかりを狙ったバラバラ猟奇殺人事件が話題となっていた。
作家・関口が出入する『實録犯罪』の編集社にも手足が送られてきて騒ぎとなっていた。
編集者の鳥口と同業の稀譚舎に勤務する敦子は、彼女の実兄・古書店主で拝み屋の
中禅寺秋彦の元を訪ねる。
彼らの執拗なる協力要請にも、中禅寺=京極堂は何故かかたくなに拒み続け、
『美馬坂には近づくな』と繰り返すだけなのだった-。
シリーズの中でも残虐な描写では1、2を争う本作が、映像化されるのはまず不可能だと
思っていた。と同時にもし映像化されたならその映像が貧相なものになることは予想もついた。
結果的にいうとそれは間違いではなかった。匣内の安っぽいセットは豪華俳優陣のギャラの
皺寄せがきたように、一昔前のテレビ特撮作品のようだった。
先日見ていた『ブレードランナー・ファイナルカット』のメイキングの中で、巨匠リドリー・スコットは、
『映画は監督のものだ。だからその全てに責任がある』と当時の苦労を回顧していた。
面子を眺めても確かに俳優部は豪華だ。前記したクライマックスの匣内のセットはお粗末だが、
戦後の東京を中国ロケで描き出し、微細に神経が行き届いた美術も見事だ。
それが見事に駄作になっているのは、巨匠のお言葉を借りるなら全て監督の責任である。
余分なカットが多くそれを細かく切り返しで繋いでいるにも関わらず、説明を全て台詞に
ゆだねている所為で、見ている方の焦点が定まらずに、結果ただでさえ難解なストーリーを
無駄に複雑化してしまっている。尺の関係もあるので脚本の改悪については言及しないが、
原作を未読の観客では1度で理解することは難しいのではないだろうか。
こういった熱狂的な原作ファンをもつ作品を成功させるためには、まず彼らが納得する
作品にしなければ応援されることはない。コミカルな京極堂や捜査をする榎木津、
武闘派とは程遠い木場、そして妙に理知的な関口…愛すべきキャラたち皆変わってるじゃん。
表舞台に出たがる原作者が納得しているなら外野がどうこういう筋合いではないのだけれども、
もう少し思い入れみたいなものも大事にして貰えればあり難いのだが。
昨今は優秀な邦画も多く高評価をつけてきたが、これは久しぶりに酷い。
原作に対する想いを抜いて1本の映画と判断しても酷い。
永瀬の降板は病欠ではなく意図的なものかと勘ぐってしまう程。映画人として正解。
【評価】☆☆☆☆☆