鉄コン筋クリート | にゃ~・しねま・ぱらだいす

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ドコにもダレにも媚を売らずに、劇場・DVDなどで鑑賞した映画の勝手な私評を。

鉄コン筋クリート(完全生産限定版)


【原作】松本大洋
【監督】マイケル・アリアス
【主演(声)】二宮和也、蒼井優、伊勢谷友介
【オフィシャルサイト】http://www.tekkon.net/

カルト的人気を誇る松本大洋ワールドをアニメーションとCGを駆使して完全再現。
このレトロオリエンタルな独特の不思議世界を外国人、しかも初監督が、というところに
日本人、邦画界の限界を見る。日本映画界の未来は明るくない。

戦後の下町、薄汚く下世話だが懐かしくもやさしくもある雰囲気漂う『宝町』。
四方を河川に囲まれ、時代や世間の常識から隔離されたこの町に住む2人の少年、クロとシロ。
彼らはこの町の裏の顔として、外部から舞い込んで来る面倒や権力を暴力と恐怖で闇に葬っていた。
住民たちは彼等を『ネコ』と呼び、恐れつつもある種の親しみをもって接していた。

その宝町にこの町で育ったヤクザ、『ネズミ』が久々に帰ってくる。
ネズミの部下・木村は緩みきった町に手を入れていくがクロの襲撃にあい、左遷。
そんな折、組は町の再開発を手掛ける外国資本と手を組む。
異国人たちは、計画の邪魔をするクロたちを圧倒的な暴力で押さえ込んでいく。

傷ついたシロの姿にクロの少し残っていた理性は消し飛び、町を血で染める暴走が始まる-。

連載は1993年ビックコミックスピリッツ。
自分は既に漫画の世界は卒業し、社会の不毛な時間に忙殺されて余裕がなかった頃だったと思う。
元々松本大洋氏の絵柄は好みではなく、同誌を読んでいた頃も敬遠していた覚えがある。
これは自分だけでなく周囲も同じような評価だったから、リアルタイムで読んでいた当時の
少年世代には、『味があるが決して上手いとは言い難い』作風は難しかったのかもしれない。
彼の再評価の気運が高まったのは、『ピンポン』映画化の頃だと思う。
窪塚洋介を一気にスターダムに押し上げた本作品は、斬新な演出もさえて大ヒット作となった。

この国の文化が漫画と小説、アニメと実写が『作品』として同じ舞台で評価されるようになって、
まだそれほどの年月が経っている訳ではない。今でこそ『ジャパニメーション』などと呼ばれ、
技術だけではなく作品の本質に関しても、世界中で話題をさらっているが、一部のマニアを
除けば、一世代前の年代では未だに『漫画は子供のもの』という固定観念が外れていない。

俗に言う『10年早かった作家』なのだろうと思う。
今、この時代・風俗、そして司る人間の感性が彼に追いついたのかもしれない。
そう思わせる程に圧倒的。そして彼の世界観を徹底的に構築したこの作品のスタッフも然り。
集中力・情熱・表現力・アイデア。
申し訳ないが、未だに仕出し弁当のメニューにケチをつけている人間がいる撮影現場が
メインの邦画界では、とても太刀打ちが出来る筈がない。アーチストと土建屋ぐらい違う。

映画界が伝統的に守ってきた『組』方式は『山田組』や『市川組』など一部を除外して、
完全にその機能を失った。経験の有無を問わず、秀でた技術・理解力・そして圧倒的な情熱が
あれば、外国人作家でさえこれだけのものを仕切ることができる。
この事実を日本人作家は恥ずべきだ。
そしてこのバックアップシステムを構築した日本人スタッフは、誇りを持って良いと思う。

映画・映像だけでなく、クリエイティブに生きる全ての人たちに見て欲しい作品。
特に、ジャニタレ使った漫画原作でショボイドラマを作って視聴率に一喜一憂している連中には
全員見て欲しい。

先日の『エヴァ』といいこの作品といい、もう日本人のクリエイティブはアニメーションにしか
現存しないのかもしれない。いろんな思いを込めて久々の5つ星。



【評価】★★★★★