韓国 車窓の旅 | 目隠しされた馬 撮影師・辻智彦のブログ

目隠しされた馬 撮影師・辻智彦のブログ

キャメラマンは目隠しされた馬か?

今年の6月に撮影に行って来た「せかいの車窓から」韓国編。
現在放送中。
http://www.tv-asahi.co.jp/train/

番組HPに今週載っている撮影日記を以下に再録

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撮影日誌3 「カフェ客車は大にぎわい」

今回はカメラマンの日記です。
何週間か韓国撮影の旅を続けて来て、毎日が驚きの連続で新鮮に感じられます。一見、日本に似た風景なのに、そこに流れる時間や空気、人々の肌触りが違うので、いっそう不思議な気分になってくるのです。大げさに言えば、SF小説などに出てくる日常とちょっとずれた異次元の世界「パラレルワールド」のような感じでしょうか。

さて、ソウルの真ん中にある龍山駅。大きくて超近代的な駅の構内は、くたびれたおじさんが巨大モニターの光に煌煌と照らされながらいびきをかいて眠っていたり、頭をきれいに剃り上げた尼さんが携帯電話でおしゃべりに夢中になっていたり、鮮やかな色彩の民族衣装をまとったおばあさんがニコニコしながらちょこんとベンチに座っていたり、早速不思議な雰囲気に満ちていました。
ホームに滑り込んで来た列車「セマウル号」は、超モダンな駅構内とは対照的に、年月を感じさせる何とも重厚なディーゼル機関車に牽引されています。いざ、乗車した私たちスタッフは、車内でもまた驚きの光景を目にしてしまいました。

この「セマウル号」には「カフェ客車」という車両が連結されているのですが、これが普通どの国にも良くある売店とカフェのついた車両とは訳が違うのです。販売されているお弁当が辛みたっぷりのキムチ焼肉弁当なのは当然として、そこには本格的なアーケードゲーム機、インターネットパソコン、そして何とカラオケボックスまでついているのです!

列車の出発と同時にカウンター席では宴会が始まり、インターネット席では休暇中の兵隊さんや子どもたちが早くもマウスを握りしめています。
その不思議な光景を撮影しながら呆気にとられる私の耳に、どこからか野太い歌声が響いてきました。「まさか」と思いながらも恐る恐るカラオケボックスのドアを開けてみると…いらっしゃいました、のど自慢のご夫婦が。「さあ、僕たちの歌いっぷりを存分に撮影してくれよ!」上機嫌のご主人と、更に上機嫌な奥様。狭いボックス内は熱気でムンムンです。次々と曲を入れていく奥様。声も枯れよと熱唱するご主人。出発早々「カフェ客車」に満ちているパワーに圧倒された私は、お二人のデュエットをBGMに、呆然として車窓に流れる風景を撮影していたのでした。

撮影 辻智彦