今年の第14回プサン国際映画祭は108日から16日にわたって開催されたが、充実、ゆとり、革新が感じられた。目に見えるところ、見えないところ、あらゆる部分で感じられた。それは、実行予算が昨年(08)89億ウォン(約71200万円)から99億ウォン(約79200万円)にアップしたことも背景にあるのではないか。アップの財源は市からの助成金の増額で、その理由としては世界的な映画祭にしようとする映画祭の努力が認められた結果という。第1回プサン国際映画祭(1996)は22億ウォンの予算で開催され、それが、2005年(10回)には545千万ウォンとなり、さらに2006(11)には74億ウォンに急増した。06年の予算が前年対比で35.8%も大幅に増加した理由はアジアンフィルムマーケットの新設によるものだ。そして、2007(12)80億ウォンとなった。政権交代、経済危機など、様々な紆余曲折にも関わらず、ここまで成長したことに驚かされる。映画祭会場のあちこちに、“プサンはアジア映画のハブ”というキャッチ・フレーズが掲出されているが、これが、単なるかけ声ではなく、本気でプサンをアジアの映画祭のナンバー1にしようという心意気が感じられる。

 初期のプサン国際映画祭は旧市内のナンポドンに本部が置かれていたが、途中(5~6回)から、海辺のリゾート、ヘウンデに本部が移され、外見上も東洋のカンヌを彷彿とさせるものとなった。そして、ここ数年の間に、ヘウンデ周辺に、撮影スタジオが完成し、今年2月には、ポスプロ・センターも完成した。さらに来年には、以前から計画されていた映画祭のための劇場が完成する予定である。そして、劇場の完成と同時に、映画祭の本部も、ヘウンデから地下鉄で2駅、ちょうど六本木~渋谷くらいの距離のところに新しく出来た街で新劇場が建設されるセンタム・シティに移される予定だ。センタム・シティは、旧米軍の飛行場の跡地に“新世界”、“ロッテ”のデパート、シネコン、ホテル、BEXCOという見本市会場などを集めて作った新しい街だ。今年は移動の過渡期で、マーケット、パーティー、セミナーなどはヘウンデ、プレス・センターなどはセンタム・シティに置かれていた。来年には、プサンは撮影所、ポスプロ・センター、劇場と、まさに映画のハブ機能を備えた都市として完成する。この映画都市へと急速な進化を遂げるプロセスはまことに、韓国的だ。つまり、映画、映像コンテンツを国の基幹産業に育成し、そのベース・タウンとしてプサンをアジアの映画ハブ都市とする計画を立案したら、最優先で進める。それは、今、サムスン電子が液晶パネルのビジネスに集中したことで、営業利益で日本の家電全体を超えたことと似ている。日本の場合は、あらゆる可能性を見ながら、ことを慎重に運ぶ結果、スピードに劣ると言われているが、韓国は計画に向かって一直線に進んでいく。パク・クァンス、ポン・ジュノといった監督を輩出した韓国国立映画アカデミーが開学して今年で25年になるが、韓国は国による映画の人材、産業の育成には大きな結果を残してきたと思う。

ところで、プサン国際映画祭と東京国際映画祭がよく比較されるが、映画の置かれているポジションが両国によって異なることから、比較にはならないと思う。韓国モデルをそのまま日本に持ち込んでもうまくいくとは限らない。その国にあったやり方があると思う。民主党政権になって、現在、事業仕分けが行われており、映画の産業、人材育成の予算もその対象となっているが、どのような結果になるかに注目したい。

(キネマ旬報 09年12月下旬号)