しばらく前、東宝の撮影所を担当する中川敬専務取締役と雑談していたとき、最近の若い世代の映画館離れが話題になった。そのとき、やはり映画の楽しさを伝えるには、大きなスクリーンで映画史に残る名作を見せることではないかと中川さんは話していた。そのときの話しが『午前十時の映画祭 何度見てもすごい50本』というかたちで実現した。中川さんは、古典をどのようなかたちにして、どのような受け皿で見せるかを、いろいろところと話しをしたが、最終的に、一般社団法人映画演劇文化協会が主催となって実現することになった。この企画発表会見が930日に行われた。

 『午前十時の映画祭 何度見てもすごい50本』は外国映画を対象として、19501970年の作品を中心に、一般映画ファンから投票を受け、そこから、作品選定委員が50本を選び、全国25ヶ所の映画館(シネコン含む)で1作品、1週間、つまり50作品50週間で上映するイヴェントだ。一般社団法人映画演劇文化協会は東宝の資金によって設立された協会だが、上映には、TOHOシネマズ、ティ・ジョイ、松竹マルチプレックスシアターズ、佐々木興行が協力している。会見では、松岡功会長が「宣伝費を2億5000万円かけて、この企画で若い世代が映画館に来るようなることと、シニア世代に青春時代に見た映画を再び映画館でみてもらうことで、映画館が活性化することを期待したい」と話した。作品選定委員に、品田雄吉、おすぎ、襟川クロの各氏と高井英幸東宝社長、特別選定委員に小泉今日子、戸田奈津子、弘兼憲史、三谷幸喜の各氏が勤めることになっている。入場料金は一般1000円、学生(専門学校含む)、こども500円、上映時間=午前10時となっている。

 選出作品で、上映権が切れているものはこの企画のために契約し、また、プリントはすべて新しいものを用意する。この企画の目的の一つ、若い世代に映画の楽しさを伝えたいということだが、彼らが観賞可能なのは、週末と夏、冬の長期休みに限られるが、それは致し方ないだろう。また、朝10時の上映は必ず行われるが、もし、盛況なら、各劇場の判断で、1週間、何回上映してもかまわない。そして、もし1年後に、25地域以外のところからの上映希望があれば、対応を検討していきたいとしている。この企画が、次年度に他地域に展開できれば最高だが、まずは最初の1年をしっかり成功させたいと中川さんは話した。まずは、映画界から、このような動きが始まったことについては、評価すると同時に応援していきたい。

 日本経済新聞10月6日にお朝刊に“生活関連消費中高年が主役”という記事があり、海外旅行、スポーツ施設の利用も中高年が50%を超えているという。 この『午前十時の映画祭~』も、中高年には高い支持が得られるだろう。そこで中高年層は、ほっておいても自発的に劇場に来るが、若い世代には、映画館に導くシステムと楽しさを伝える解説が必要ではないか。“あの劇場で昔の面白い映画やってるから、行って見たら”といって、仲間を誘いあって見に行くということは、まず、ない。週末の団体観賞と解説をセットにして1年続けることが実現できれば、その地域の映像リテラシーは格段に向上すると思うので、せっかくのチャンスだけに、何とか利用できるよう知恵を絞ってほしいものである。