コンテンツ・ファンドの今後を考える


 前々号でコンテンツ・ファンドの結果について触れたが、その後、映画の資金調達をする金融関係者と映画プロデューサーと、この件について話す機会があった。結果の分析と今後、どうすればいいのかということが話題となった。

 日本の国による映画製作に対する助成、サポートは大きく分けて、文化庁の芸術文化振興基金などと、独立行政法人・中小企業基盤整備機構などのコンテンツ・ファンドがある。文化庁の助成は、文字通り、文化に対する助成で、商業性が見込まれなくても、才能のある人財へのサポートだ。一方、コンテンツ・ファンドは中小企業や人材をコンテンツ・ビジネスで活躍できるよう育成する目的である。この二つの助成は明確に目的が異なり、対象も異なるはずである。しかし、現実には同じ企画が両方に応募し、審査されている。まあ、中には芸術、ビジネスが高いレベルで両立する企画があるから、双方から受け入れられるということもあるかもしれないが。

 しかし、コンテンツ・ファンドは町工場だった松下電器や本多自動車が世界的企業に成長したように、中小プロダクション、プロデューサーを大手映画会社と拮抗できるよう育成、応援するのが目的である。そこで、もしコンテンツ・ファンドを今後も続けるとするなら、私は、仮説として、応募の条件を、製作費3億円以上、公開規模100スクリーン以上といった制限をつけたらとそこで話した。コンテンツ・ファンドの資金が入った企画には拡大公開の作品もあることはあったが、多くはロウバジェットの企画だったからだ。中小企業を育成することとは、才能のある草野球のピッチャーをメジャー・リーグで投げさせるようなサポートである。草野球の試合数を増やすサポートをしては意味が違ってくる。5000万円の企画10本にファンドの資金を入れるのか、5億円の企画1本に絞り込むのか。私は中小企業を育成するには後者だと考える。出す側も受ける側も、その企画が市場から受け入れられるか真剣になるはずだ。

 「フラガール」、「ただ君を愛してる」、「夜のピクニック」などファンドの資金が入った企画で拡大公開された作品もある。作品評価、興行的な結果はいろいろあるが、経験が重要である。コンテンツ・ビジネスで中小企業を育成するには、やはりある程度以上の規模の作品を作る経験が必要ではないか。

 やはり以前、この欄で触れたが、昨年、韓国で観客動員500万人を超える大ヒットとなった「チェイサー」はナ・ホンジュ監督のデビュー作だったが、新人監督に製作費、日本円で4億円が用意された。現在、厳しい状況に直面する韓国の映画産業だが、90年代から国をあげてコンテンツ産業を支援し育てあげた経験があり、才能を見極め、失敗を恐れないシステムができている。また、「ラストコーション」、「レッドクリフ」、「戦場のレクイエム」、「ウォーロード」、そして前号のこの欄でふれた「Body guird and assassin」など、アジアでは大型国際共同製作の企画が次々と誕生している。日本では、最近の映画は、映画とテレビの区別がつかないなどと言われ、映画らしい大型アクション企画は年に数本あるかないかという状況である。日本からも大型企画を手がける製作会社、プロデューサー、監督の育成が重要であり、そういうことからもファンドは続けてほしい。

(キネマ旬報20095月下旬号)