AFI学生製作のショート・フィルム「THE 8TH SAMURAI / 8番目の侍」の衝撃


 「家紋の栄光」をはじめとする“家紋”シリーズや「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・コリア」(日本未公開)といったエンターテインメント作品で、韓国ではヒット・メイカーとしてプロデューサーから信頼の厚いチョ・ヨンギ監督と数年前から親しく付き合っている。私が今まで付き合ってきた、アート系の監督や評論家とはまったく畑違いの人だが、妙に気が合った。私が韓国映画を熱心に日本に紹介していることを知ると、彼と対極にある作風の監督作品を含めて、注目すべき作品のDVDを贈ってくれるようになった。そのセレクションのセンスがよく、本当に役立っている。お礼に、私も、彼がリメイクしたら面白いのではと思う日本のコメディ映画のDVDを贈り続けたが、価格が日本のDVDの方が高いことから、「あまり無理しないで」という心遣いまでしてくれる。

 そのチョ・ヨンギ監督から、アメリカン・フィルム・インスティテュート(AFI)の学生が製作した「THE 8TH SAMURAI」というDVDが届いた。これは、あの「七人の侍」は、企画の当初は8人だったというフィクションの30分弱のショート・フィルムである。神聖ともいえる作品を題材にするのは“いかがなものかな”と思いながらも見始めると、その力量に驚かされた。“8人の侍”の撮影は監督が脚本の直しで遅遅として進まず、プロデューサーは頭を抱えていた。そして、あるヒラメキから、登場人物を7人にすることで一気に脚本は進んだ。一方、8人目の侍“ナンシュウ”は、今までの人生、何をやっても長続きせず、この仕事に人生をかけていたのだが…。

 脚本、監督のニューヨーク生まれのジャスティン・アンブロシーノをはじめ、スタッフはすべて非日本人で、プロダクション・デザイナーにナラ・ユン、編集にチョン・スジンと二人の韓国人が参加している。一方、キャストは、ナンシュウに扮する尾崎英二郎、その母親役に志麻明子など、「硫黄島からの手紙」に参加した日本人である。8人の侍を7人にする物語の進行と、8人目の侍の心理描写がバランスよく絡み合い、モノクロの撮影が素晴らしく、バックの音楽の入り方も絶妙だ。

 この作品を見て思ったことは、AFIはどのような役割を果たしたのかということだ。それは、どのように映画製作を教えているかということでもある。何故かといえば、日本で学生の作ったショート・フィルムを見て、このような印象を受けたことがないからだ。私ひとりが盛り上がっても意味ないので、何とか、日本でも見る機会を作るようにがんばりたいと思っている。

 そして、このアンブロシーノ監督の新作を、チョ・ヨンギがプロデュースするという。アメリカ人シェフと韓国人のフード・スタイリストのラヴ・ストーリーだ。”It Started in Seoul"(それはソウルではじまった)というタイトルである。アメリカ、韓国の若いフィルム・メイカーを韓国の第1線の監督がサポートする。なんと素敵な話しではないか。4月に打ち合わせするので、見に来ないかと誘われているので、ぜひとも、参加してみたい。


キネマ旬報映画総合研究所 所長のシネマレポート
「8th SAMURAI」のDVD


キネマ旬報映画総合研究所 所長のシネマレポート
ジャスティン(中央)、チョ・ヨンギ監督(右)と私/2009年5月5日

(キネマ旬報20093月上旬号)