深刻化する単館系外国映画の不調を考える


 年末、年始の都心の映画館を回って見た。年末、日比谷シャンテ・シネでは「アラトリステ」、「英国給仕人に乾杯!」を見た。ともに夕方の上映で、観客の入りは60%くらいで、上々だった。当たり前かもしれないが、若い観客はほとんどいなかった。印象では30代わずか、40代ほどほど、5060代が中心のようだ。前々号でも紹介したが、昨年(07)の外国映画の公開本数は一昨年(403本)から40本減少し、363本だった。02年、日本映画のシェアは27%とワーストを記録したが、以後、反撃が始まった。それは逆に03年から外国映画の不調傾向がはじまったことでもある。特に、単館ミニ・シアター系の作品を買い付ける日本資本の外国映画輸入配給会社が大きくシェアを落とした。そして各社の買い控えが始まった。それでも07年までは、既に購入していた大量の在庫が市場に出ていたが、08年にはついに、それも底をついて減少となった。09年は、さらなる公開本数の減少が予想される。この理由は、単館系外国映画を若い世代はほとんど見ないということである。先日、角川エンタテインメントの椎名社長と話したときも、外国映画のビジネスはもはや成り立たないと苦しげに吐露していた。

 年初には、新宿バルト9、新宿ピカデリーを回った。「WALLE ウォーリー」、「地球が静止する日」、「K-20 怪人二十面相・伝」、「252 生存者あり」に日本語吹き替え版含めて、幅広い観客が詰め掛けていた。日本映画、外国映画という分け隔てはなく、面白そうだと思う作品を選んでいる。特に若い世代は吹き替え版にも抵抗はなく、むしろ日本映画に親しみを持っているという。こんなことは、現場の劇場関係者は体感していることなのだろうが、まざまざと目撃すると、ちょっと驚く。邦洋分け隔てないのはいいことだと思うが、外国映画に興味がないというのも困る。私が中学に入学して映画を見始めたころは、日本映画を見ない外国映画ファンが大勢いた。「シャレード」(631221日公開)、「シェルブールの雨傘」(64104日)の観客層は、まず邦画を見なかった。東和映画が主催する“東和シネクラブ”という組織にしばらく参加していたが、そこで邦画の話題はまったくと言っていいほど出なかった。映画を通して、海外の文化を吸収しようという意欲があったと思う。

 今、単館系の外国映画を支えているのは、若いころから、外国映画にこだわり続けてきたオールド・ファンたちである。そして、彼らの残された時間とともに、単館系の映画も遠ざかってしまうのか。単館系で上映される多くの映画は世界の映画祭で勝ち抜いてきた、つまり予選を通過した選ばれた作品ばかりである。好き嫌いはあるかもしれないが、外れは少ない。“もったいない”というのは、物を粗末に扱うことだけではない。“機会”を見逃すことにもあてはまると思う。日本の単館系外国映画文化が消えていくことは、本当に残念であり“もったいない”。1980年代、東京の多くのミニ・シアターには、世界中の映画を求めて観客がつめかけていた。映画のブームは一定の周期で循環するもので、現在の若い世代にも、単館系の作品がトレンドならないかと思うのだが………。

(キネマ旬報20092月上旬号)