映画は不況に強いのか? 日本映画産業の現状から見えるもの


 121日に第53回『映画の日』中央大会が開催され、今年、08年の日本の映画産業の現状が発表された。スクリーン数では、今年もシネコンのオープンが続き、閉館との増減を差し引き、昨年の12月末対比で139スクリーン増の3360となった。全スクリーンのうち、シネコンの占めるシェアは80%と、昨年の74%からさらに増加した。また、観客動員数、興行収入でも、今年の上半期は不調で危ぶまれたものの、4月以降に持ち直し、最終的に、昨年の観客数1億6300万人、興行収入1984億円前後に落ち着きそうである。日本映画、外国映画大手13社の10月末までの興行収入では、前年対比で100.3%となっている。日本、外国のシェアでは、日本映画が外国映画を上回り、5560%のシェアが予想されている。映画の公開本数では、日本映画が昨年より5本増の412本、外国映画は40本減の363本、トータルで35本減の775本と見込まれている。

 昨年は1027、「クローズZERO」(25億円)、113日「ALWAYS 続・三丁目の夕日」(45.6億円)、「恋空」(39億円)という大ヒットがあったが、今年はそこまでの作品がないだけに、若干、昨年を下回るのではないか。それでも、前年対比で97%程度ではないか。このデータから日本映画産業全体を俯瞰して見ると、他の業種に比べ、安定しているように見える。何しろ、トヨタ自動車、パナソニック、キャノンといった、日本を代表する世界的な企業が苦戦している時代である。そして、異業種の方々から、“映画は不況に強いと言われてますよね”などと羨ましがれたりする。

 しかし、映画界の周囲を見回しても、ほんの一部を除いて、今年は、好調な話しを聞いたためしがない。スクリーン数は増える一方なのに、観客数はほぼ横ばいだ。ということは、1スクリーンあたりの観客は減少し、劇場からは悲鳴も聞こえる。同様に、日本映画の公開本数は増えているのに、観客は増えない。さらにビデオ市場の悪化が映画の収支の足を強く引っ張っている。外から見れば、映画産業は前年対比ほぼ100%の堅調な業界かもしれないが、内実は整理、再編の嵐が吹いている。私には、“映画が不況に強い”というのは、“不況に慣れている”、“不況に免疫を持っている”という意味にしか受け取れない。日本の映画産業は1960年代半ばから、ずーっと斜陽の道を辿ってきた。だから、業界の古参の方々は、少々の不調でも、皆さん明るい。むしろ、落語の登場人物のように、自分たちの置かれた状況を笑い飛ばしたりしている。いわゆる活動屋の心意気である。一方、異業種から映画産業に進出してきた若い人たちの方が、暗く沈んでいる。ビジネスマンから見れば、笑っている場合ではないということか。この10年間の状況は、プレイヤーが増えていながら、同じ大きさのパイを食い合ってきたわけである。そこで、現在の状況を打開するには、パイを大きくする、つまり観客動員を増やすしかない。そして、こんなときだからこそ、明るい姿勢で臨んでほしいものである。

(キネマ旬報20091月上旬号)