映画を見る余裕すらない最も不安定な年代の意識を追った「40歳問題」


 この連載のタイトル“絶滅危機種”とは映画ファンのことである。何故、このタイトルを付けたかというと、劇場関係者と話していると、映画館に中高生の姿が激減していると聞いたからだ。将来の映画観客となる彼らが激減していることは大きな問題である。現在、メイン観客層の2030代の女性層を除くと、安定的に映画館に来場しているのは、団塊の世代の60歳くらいからである。彼らの青春時代には映画を見ることが日常生活に組み込まれ、今もその習慣が残っている。一方、中高生よりも映画を見ないのが40代、特に男性だという。働き盛りの彼らの世代は、終身雇用、年功序列という制度が無効にされてからも、まだ長い距離を走らなければならない。将来の年金は不透明、子供がいれば教育費が最も必要な年代でもある。そして親の介護だって起こりうる。だから、映画なんて、とても見る余裕はないという。このように、現在の40代とは、戦後、最も不安定な年代といえる。

 知人の音楽家で映画プロデューサーでもある村山達哉氏から、昨年40歳を主人公にした企画の相談を受けた。村山さんには同世代のロック・ミュージシャンの知人が多数いる。皆、若くしてデビューし、勢いに乗って活動してきた。そして40代になるが、ロックン・ローラーといえども生活者であり、自身の周囲の問題(結婚、離婚、家族、育児など)から、地球の環境、世界の紛争までがアーティストの活動に係わってくる。そこで、浜崎貴司(フライイング・キッズ)、大沢伸一、桜井秀俊(真心ブラザーズ)の3人を追った「40歳問題」というドキュメンタリー映画が誕生した。現代という時代に40歳を迎えたということについて、皆、熱く語る。辿ってきたキャリア、これからの方向性も違う3人が40歳というテーマで出会い、僅かに重なるところと、多くの相容れないところで、常にピリピリした緊張感が漂う。演出をお願いしたやはり40代の中江裕司監督は“40になって意識したことは、社会貢献ということで、ぼくにとっての社会貢献は映画に対するものなので、沖縄に桜坂劇場という映画館を作った”と語る。3人の他に、スネオヘアー、箭内道弘、リリー・フランキー、小川直也、洞口依子、角田光代の各氏が、それぞれの40歳問題についてを語る。この作品は、映画を見る余裕すらない40代という世代の意識を追ったものだが、「30歳問題」、「50歳問題」、「60歳問題」を抱える現代の日本人に向けた作品でもある。


キネマ旬報映画総合研究所 所長のシネマレポート

コンサートのリハーサル
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桜井秀俊


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中江裕司監督(左)と浜崎貴司


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一志治夫(構成


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大沢伸一


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浜崎貴司

(キネマ旬報200812月下旬号)