チュンムロ国際映画祭で実感、観客の質の高さがいい映画をつくる


2回チュンムロ(忠武路)国際映画祭が93119日間にわたって、韓国のソウルで開催された。チュンムロ(忠武路)は韓国の映画会社が多く集まる街で、アメリカのハリウッドのように、韓国では映画タウンの代名詞のような存在である。現在、韓国では毎年10月上旬に開催されるプサン国際映画祭(今年で12回目)が最も古く、規模も大きい。そこに、昨年から首都のソウルで、やはりかなりの規模の映画祭が開催されることになり、次期も接近していることから、足の引っ張り合いになるのではないかという声をあがった。しかし、チュンムロ国際映画祭は、クラシック映画を紹介することがメインのテーマであり、プサンとの差別化をはかっている。インターナショナル・コンペティションでは審査委員長をマイケル・チミノ、審査員には日本から寺脇研氏も参加していた。


キネマ旬報映画総合研究所 所長のシネマレポート
映画祭開場

今年の特集は、ドイツ映画のロマンティシズムとして、ムルナウの「ノスフェラトゥ」、フリッツ・ラングの「ドクターM」、の古典から「バグダット・カフェ・ヂレクターズ・カット」などまで、28本の作品が上映された。そして第2特集として、市川崑監督が取り上げられた。上映された作品は「ビルマの竪琴」、「炎上」、「おとうと」、「黒い十人の女」、「犬神家の一族」、「悪魔の手毬唄」、「病院坂の首縊りの家」、「細雪」、「どら平太」の9本と、岩井俊二監督による市川崑ストーリー」である。わたしは9日(火)、10日(水)の午後の5作品の上映に立ち会ったが、どの上映もほぼ満席か、金田一シリーズは売り切れだった。そして、若い観客がめだった。他の特集では、スペシャル・イフェクトのダグラス・トランブルが紹介され、「2001年宇宙の旅」、「未知との遭遇」、「ブレインストーム」、「ブレード・ランナー」などが上映された。また、デヴィッド・リーン、デボラ・カーといった渋い特集も組まれていた。同じ番組を現在の日本で上映したとき、果たして、これほどの観客が集まるだろうか。特に若い観客については悲観的にならざるを得ない。

そして、映画祭事務局から、最近の作品で、小粒でもいい作品があったら紹介してほしいということで、私は井上春夫監督の「音符と昆布」を推薦しておいた。この上映では、主演の池脇千鶴と井上監督が舞台挨拶に立ったが、2回の上映は売り切れの満席、そして上映後のQ&Aでは弾ける拍手で迎えられた。こんな歓迎を受けたことのない井上監督は、映画監督として続けることに大きな自信を得た。5月のチョンジュ国際映画祭でも、「サイドカーに犬」の上映後の熱気に、根岸吉太郎監督が今まで最高の反応だったと話していた。韓国の映画祭では、多くの日本人監督が勇気をもらって来る。いい観客が優れた映画を作るということが、韓国の映画祭に参加して実感する。

(キネマ旬報200810月下旬号)