8月9日の朝日新聞に今年の上半期の興行で、“外国映画が不調”という記事があった。昨年の上半期は「パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド」(109億円)、「スパイダーマン3」(72億)、「硫黄島からの手紙」(51億)などの大ヒット作があったが、今年は「アイ・アム・レジェンド」(42億)、「ライラの大冒険」(推定35億)、「ナルニア国物語」(推定30億)、そして上映中の「インディー・ジョーンズ」(推定55億)とヒットの規模が小粒になっている。外国映画の不調はここ数年来のことで、日本資本の輸入配給会社はそれこそ絶滅の危機に瀕している。またハリウッドの日本支社も、ブロック・バスターの超話題作以外は苦戦している。現在のハリウッド各社は、映画や映画以外のテレビ・シリーズの放送権とビデオで支えられている状態である。外国映画が不調という傾向は2005年あたりから顕著になってきた。

 それでは、どうして日本人はこれほど外国映画を見なくなったのか。その理由として、外国映画がつまらなくなったこと、観客の嗜好が変わったこと、その背景にシネコンの普及があると、わたしは考えている。日本の映画観客の中に高齢層の占める割合は高く、彼らにはCGを多様したハリウッド映画より、日本映画を選ぶようになった。そして、それをシネコンが後押しした。かつて洋画ファンには、まったく邦画を見ない層がかなりいたが、同じ建物の中で予告編などに接して、邦洋わけへだてなく見るようになった。また、東京では80年代にミニ・シアターが続々と誕生したが、それはジム・ジャームッシュ、タビアーニ兄弟、コーエン兄弟、ホウ・シャオシェン、アキ・カウリスマキなどのアート系作家の新作が次々と公開され、多くの観客を集めた。しかし、その後、若い作家はあまり誕生せず、未だに彼らが映画祭の目玉になっている。その結果、ミニ・シアターには観客が集まらず、また、その種の作品の輸入配給会社は苦境に陥った。そして日本には世界のどの国にもない「花より男子」、「相棒」などテレビから派生した強力なコンテンツがある。

 ここで、日本以上に自国の映画のシェアが高い韓国と日本でのハリウッド映画の動員を比較してみよう。「最高の人生の見つけ方」(日=100万人、韓=25万人)、「アイアンマン」(日=9月公開、韓=440万人)、「ウォンテッド」(日=9月公開、韓=290万人)、「カンフーパンダ」(日=推定150万人前後、韓=470万人)、「インディー・ジョーンズ」(日=推定450万人、韓=430万人)といったところで、日本では当たらないタイプのハリウッド映画が大きなヒットとなっている。これは、韓国の観客層が圧倒的に10代、20代が中心だからで、一方、「最高の人生の見つけ方」のような高齢層を対象にした作品は不振である。

韓国には、自国、外国問わず、単館系市場が存在しないので、韓国映画とハリウッド映画で大きなシェアを占めている。日本で「インディ~」と「最高の人生の見つけ方」がヒットしているところに、日本の外国映画市場と特性がうかがえる。そして、ハリウッドが全世界に発信する企画が日本の市場には、あまりマッチしていないということも推測できる。

わたしは、長い間、映画の世界を見てきたが、市場のトレンドは一定周期で循環してきた。果たして、外国映画がまた大きくシェアを伸ばす時代来るのか、今の若い観客の嗜好を見ると、難しいようにも思えるのだが。

(キネマ旬報20089月下旬号)