シネマ・シンジケートとは


 BOX OFFICEのコーナーが変わり、映画界に発信する連載を始めて欲しいと明智編集長から仰せつかった。そこで、タイトルは強いインパクトがあるものがいいと申し渡された。業界を挑発したり、顰蹙をかうようなことを私にさせようという魂胆である。絶滅危機種とは、もちろん映画ファンのことである。BOX OFFICE時代もたびたび書いていたが、ここ10年間、スクリーン数は1200以上も増え、映画の公開本数も300本近く増えたが、観客動員はほぼ横ばいである。

このスクリーン数の増加はシネマ・コンプレックスの拡大であり、この背後に、多くの街中にあった個人営業の映画館が廃業に追い込まれた。そして、シネコンの普及によって、ヒット作が集中的に上映される環境が加速した。この結果、今や小規模配給会社と街の映画館は存続の危機に追い込まれるようになった。この10年間、シネコンが増えても、映画観客は増えなかった。では、映画観客が増えない原因はどこにあるのか。それは、習慣的に劇場で映画を見る人が増えていないということだ。そして、映画ファンは高齢化し、一方、中高生といった、新たな映画ファンが生まれていない。漫画界に“2007年問題”というのがあった。それは、団塊の世代が定年退職することで、習慣的に買われていた駅売り漫画週刊誌の販売が減少する危機である。一方、若年層の読者は増えていない。映画業界と同じである。

 このような状況の中で、(財)国際文化交流推進協会のコミュニティシネマ支援センターが《シネマ・シンジケート》という、映画の上映ネットワークを組織化され、2008711130より、京橋の映画美学校において発表記者会見が行われた。簡単に紹介すると以下のようなことである。

*東京のメイン館を除いて、全国50都市、55館の上映網を組織化。

*目的=①「街中映画館」を残す。

②大量宣伝、大量消費から秀作、作家の映画を救う。

③上映環境の地域格差をなくす。

④優れた観客を育てる。

*作品の選定基準と選考=Category1、良質、かつ興行力ある作品。Category2、作家性のある、一定規模のある作品。Category3、上映者としてぜひとも紹介したい作品、監督として育ってほしい作品。そして、作品は地域ブロック代表者会議で「特選作品」「選定作品」が選ばれる。上映作品は年間4~6作品が選ばれる。

*上映以外の活動として、無料の情報誌の発行、ネットワーク間の情報交換、児童、学校向け観客開発プログラムなどが予定されている。

会見後の質疑応答では、理想と現実の間で、厳しい質問も飛んだ。強い作品はこの上映網に頼らずに配給できる。その意味では、強い作品なら自然と資金は集まり、資金が集まらない作品が求めるコンテンツ・ファンドと似ている。しかし、今や、行動することが重要である。そして、ここに集まった人たちは、映画に人生を捧げている人ばかりである。新しい観客を育てるには、そういった人たちの地道な努力しかない。これからも紆余曲折はあると思うが、ぜひ成功してほしいと思う。この夏、「ザ・マジックアワー」、「花より男子」、「崖の上のポニョ」の3本で、おそらく興収300億円前後(2500万人)くらいになると思うが、全体の観客が増えなければ、その分、他の作品が食われることになる。もちろん、この3本に責任があるわけではなく、新たな観客の育成が重要なのだ。

(キネマ旬報20088月上旬号)