今回で完結する記事は、シネマナビ・ブログに2012年9月2日付けで掲載した<「アベンジャーズ」がマーベル最高作品となった10の理由はこれだ!=後編>の永久欠番化である。

 


【理由⑦=舞台をニューヨークに設定し、スターク・タワーを建てた場所の意味深さ】
今回、「アベンジャーズ」を評価する理由として挙げた10のポイントの多くは、映画雑誌などで指摘されているものと共通するが、この⑦を強調するのは本記事ぐらいだろう。


近年、たいした情報を公式サイトには掲載しないハリウッド映画において、「アベンジャーズ」の公式サイトは、良くも悪くもトリビア情報を盛り込み過ぎで、映画ファンがいろいろと調べたり、推理する楽しみを奪うようなネタバレまで平気で明かしている。
その悪乗りの最たるものが、今回の影のヒーローであるフィル・コールソンが実は死んでいないと示唆する記事だった。


そうした中で映画雑誌だけでなく、劇場用パンフレットでも触れていないネタが、トニー・スタークがマンハッタンの新しいシンボル・タワーとして建設したスターク・タワーが建つ場所であり、それに対して公式サイトでは場所が明記されたのだった。


掲載当時、「映画鑑賞後にご覧ください!」という断りが付けられていた「『アベンジャーズ』がもう一度観たくなる10のトリビア!」(リンク切れ)の4番目に「スターク・タワーはどこに建つ?」という項目が設けられ、「トニーが『クリーン・エネルギーの自家発電』と胸を張るスターク・タワー。もちろん架空の建物で、実際にはメットライフ・ビル(旧パンナム・ビル)が建っている場所にあるようだ」と書かれた。


前回の記事の「ボーナス・トラック②」でも触れたように、本作において戦場と化すマンハッタンの中でも、特に激戦のスポットとなるのがミッドタウンの42番街であるが、それはこのメットライフ・ビルが42番街に近接して建つからである。


その位置を示した図面が、「ニューヨーク・ロケ地ガイド」に掲載されているので、参照して戴きたい。(→リンクは、こちら )
シネマナビ・ブログの別記事で取り上げたように、映画の舞台としてよく使われるグランド・セントラル駅に接し隣接してクライスラービルが建ってい


このクライスラービルについては、ドラマチックナビ・ブログで詳しく解説(「マンハッタンで一番美しいビルは、恋愛映画だけでなくアクション映画の象徴にもなった!」)したが、メットライフ・ビルも、元々の「パンナム・ビル」としてハリウッド映画に度々登場している。
シネマナビ・ブログの開設当初からの読者だった方であれば思い出して戴けるかもしれないが、例えば、2011年2月26日にアップした記事で
取り上げた「恋は邪魔者」(2003年)と「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(2003年)である。


同じ年に公開されたこの2作品には共通点が多いが、ここでのポイントは共に、1960年代のマンハッタンが舞台(後者では1つに過ぎない)となり、かつ、エアラインのパイロットが登場してパンアメリカン航空(パンナム)の本社ビルが姿を見せるという点である。


「恋は邪魔者」でのパンナム・ビルは、CGで再現された映像で、前面にグランド・セントラル駅があり、その入り口からレニー・ゼルウィガーが演じるヒロインのバーバラ・ノヴァクが姿を見せる。(タイトル・シークエンス直後のスタートから3分の場面で登場。クライスラービルも見える。)
位置的には少し離れている国連本部ビルが、駅の向かい側にあるという悪戯が施されている。


これに対して、「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」では、前面上部のビルのロゴをCGで付け替えた映像だと思うが、レオナルド・ディカプリオが扮した主人公フランク・アバグネイルJr.がパンナムのパイロットになりすますために本社ビルを訪れた場面で登場する。(スタートから34分)


今はもう存在しないパンナムは、アメリカの主要製造業の1つである航空機産業の発展と共に発展したアメリカの象徴であるフラッグ・キャリアだった。
それが21世紀が到来する前に倒産して消滅するとは、1960年代当時、予想した国民はいなかったと言ってよい。
その根拠の1つとして、皮肉なことに1968年に公開されたSF映画の傑作「2001年宇宙の旅」では、冒頭、地球を周回する宇宙ステーションへの地球からの定期便路線のシャトルがパンナム機だった。


よく見ると、機体に「PAN AM」と記されていただけでなく、その反対側やスタートから34分の機内のシーンでの機内食にも同社のゴマークが入れられていた

ちなみに、このシャトル機の操縦席の自動操縦コンソールはIBM製であり宇宙ステーションの滞在フロアを運営しているのは、「トータル・リコール」のオリジナル版の火星のシーンでも登場したヒルトンだった。


今日、IBMもかつての世界最大の売上高を誇ったIT企業の面影はないし、ヒルトンも往時とは経営形態を変えている。

話をパンナム・ビルに戻すと、1963年にパンナムの本社ビルとしてオープンしたが、同社の経営悪化に伴い1981年に生命保険会社のメトロポリタン・ライフ・インシュアランス(メットライフ)に売却され、1991年の事業停止に伴い、ビルの名前も「メットライフ・ビル」に改名された。


それは、アメリカの産業構造の主力が製造・運輸業からサービス・金融業に転換を終えた象徴でもあったが、航空機と並ぶアメリカの製造業の柱であった自動車産業の繁栄のシンボルであったクライスラービルが、ビッグスリーの一角を占めたクライスラー社の手を離れて、アメリカの不動産会社や保険会社などの所有となったことと軌を一にしていると言えよう。


そう、マンハッタンの中心に聳えるクライスラ―ビルとメットライフ・ビルは、まさにアメリカの産業の盛衰を端的に示すアイコンでもあるのだ。
その1つであるメットライフ・ビルが、本作ではアメリカを代表する軍需企業からクリーンエネルギー企業へと脱皮しつつあるスターク・インダストリーズの拠点ビルに置き換えられた


そして、その美しい姿から本作でそのまま残されることになったクライスラービルと並び立つということに、21世紀においても世界の経済・文化の中心としてニューヨーク、すなわちアメリカが君臨することを全世界に示したのが狙いであったと私は理解したい。


なお、このスターク・タワーの屋上にチタウリ軍団を迎え入れるワームホール機が設置されるというのは、軍需企業からの脱却を図ろうとしたトニー・スタークにとっては痛撃であったが、映画の設定としては、「アメイジング・スパイダーマン」のクライマックスの設定と大同小異であるとの批判は免れない。


【理由⑧=関連作品のネタを適度に散りばめることでマニア・一見客の両方に配慮】
この問題は、前回までに述べたことと重なり合う点である。
特にキーパーソンであるフィル・コールソンと、アイアンマンやペッパー、ソーやセルヴィグ教授、同じエージェント仲間であるホークアイやブラック・ウィドウとの関係については、マニアにとっては常識の範疇である。

そして一見客も、あらかじめ知っていた方がより楽しめると思うが、知らないと理解できないというレベルの問題としては処理されていなかったのは幸いである。


マニアにとっても、チョッとレベルが高いネタを2つ挙げると、「マイティ・ソー」においてソーと飲み仲間となったセルヴィグが、スタートから47分の場面で「知り合いのガンマ線研究者のところにS.H.I.E.L.D.が現れたが、それ以来、彼は行方不明だ」と語った「彼」とはブルース・バナーであった。

そのことを覚えていると、今回、ブルースが前半、セルヴィグと共にロキに奪われたコズミック・キューブから放出されるガンマ線を追跡する任務に当たることが納得できる。


もう1つは、ムジョルニアを取り戻すためにS.H.I.E.L.D.が封鎖したクレーターに現れたソーをクレーンの上から監視するホークアイが、力を失った彼が泥土の中でガードマンと悪戦苦闘する様子に接した時(スタートから58分)、「奴を気に入ってきた」とコールソンに答える場面だ。
日本語字幕と日本語音声でニュアンスが異なるが、原文では「root for this guy」(あいつを声援する)だから、敵として見るのではなく、好意を持つようになったということであり、本作に繋がる伏線と見ることができるだろう。


理由⑨=大仕掛けの作品と対比的に、トレカというコレクターズ・アイテムを決め手にして収集癖の男子のハートにアピール】
アメリカのアメコミ・ファンにとってトレーディング・カードがコレクション・アイテムかどうか知らないが、スマッシュ・ヒット作「キック・アス」(2010年)のブルーレイには登場キャラのトレカが封入された。


私もファンであるいきものかがかりのシングルCDにも毎回、トレカが付けられていた。
小学生の時に始まった切手を皮切りに、私の収集癖はなかなか抜けないが、大なり小なり日本の男子はコレクターではないかと思う。


だから、フィル・コールソンが、熱烈なファンでありながら北極の氷の下から発見されたキャプテン・アメリカを見守るだけで、アイアンマンやソーに対してのように親しく話ができる機会がなく、いつかお宝にしているプレミアのトレカにサインしてもらおうと持ち歩いていたというエピソードには深く共感できた。
しかし、彼はヘリキャリアの中でロキに刺されて、キャプテン・アメリカにサインを書いてももらうことができずに殉職してしまう。


S.H.I.E.L.D.がコズミック・キューブを新兵器として利用することを狙ってセルヴィグに研究させていたという陰謀をブルースが暴いたため、アベンジャーズの結束力は崩壊しかけていたのだが、策士のニック・フューリーが部下の不幸を利用することに成功する。
そう、アイアンマンをはじめ、アベンジャーズのメンバーに信頼されていたコールソンの想いが血で汚れたトレカで物語られていることをニックが示したため、ロキの陰謀に真正面から向き合うことになるのだ。


マニア以外には価値がないトレカが、誠実であることが取り柄の一介のエージェントをヒーローに仕立て上げる-この思わぬ設定が、収集癖のある私をホロリとさせたのだった。
ジョス・ウェドン監督のツボを押さえたコールソンの扱いで、私の本作に対する評価は一旦、加点されたのだが、実は死んでいなかったという扱いでチャラになった。


理由⑩=続編への期待を高め、展開を様々に予想させる伏線を巧みに配置】
これも、この一連の記事において、既に種々、指摘した点である。
ただし、本作の編集前のプロトタイプ・バージョンでは、キャプテン・アメリカに関するエピソードがかなり盛り込まれていたのが、新参の観客を考慮して、バッサリとカットされたそうだ。


その中には既に指摘した時代錯誤者としての彼が、現代に適応できずに苦労する様子の他、戦時中の恋人カーターと再会するエピソードも含まれていたという。
何でもありのマーベル作品だから、具体的にこのペギー・カーターがどのような設定で登場しようとしたのか分からないが、普通に歳を重ねたとしたら90歳にはなっている筈だ。
これらのカットされたシーンが、「キャプテン・アメリカ」の続編で復活するのか要注目だったが、「ウィンター・ソルジャー」において老いたカーターが登場した。


スピンアウト作品としては、ホークアイとブラック・ウィドウの単独作品や2人の過去を描く作品が作られるかどうかに私は注目していた。
特にブラック・ウィドウこと、ナターシャ・ロマノフは、その名前から窺われるように、ロシア時代には凄腕の暗殺者だったようで、キがどのような方法で彼女の過去の秘密を知り得たのかも、気になる謎として残る問題たった。


さらには、作中の台詞に登場するサンパウロやブダペストといった地名の他、“ドレイコフの娘”や“病院の火災”といった謎めいたキーワーも大いに気になった。

アベンジャーズの紅一点であるだけに(S.H.I.E.L.D.の副司令官だったマリア・ヒルを加えると紅二点)、特にブラック・ウィドウのスピンアウト作の実現を期待したが、結局、彼女の単独作は製作されず、「ウィンター・ソルジャー」など後続の作品においてフラッシュバック的に挿入されるに留まっている。


 一方、本作のラスト、一件落着した後のメンバーの様子のうち、独りオートバイに乗るキャプテン・アメリカに対して、ナターシャとホークアイことクリント・バートンの行動が意味深だったが、単に邪推に終り、続編の「エイジ・オブ・ウルトロン」などでは、彼女とハルクの関係が注目点の1つになった。


最後に、これだけは今後の展開の伏線として利用しないことを願ったのが、前項のコールソンのトレカがあった場所だった。
ニックは、アベンジャーズのメンバーに対して、コールソンが亡くなった時に着ていた上着のポケットに入っていたと説明したが、後の場面でマリアが「ロッカーの中に置いてあったのでは」とニックに確認する場面が登場した。

それに対して、ニックが「きっかけが必要だった」と答えることから、彼がわざわざトレカを血で汚したものと推測される。


上記の公式サイトの「10のトレビア」では、このニックの言葉を根拠に「コールソンは実は死んではいない!?」とトンでもない説を書いた。

もし続編でコールソンがアベンジャーズの団結力を高めるために、例えば一時、身を隠したということになったのなら失望したところだが、今までのところ、彼はテレビドラマ・シリーズの中だけでの復活に止まり、アナザーワールド的な扱いになっている。


 なお、最終回は、「理由⑦」を除き駆け足になってしまったが、シネマナビ・ブログで書いた関連記事との重複を避けた結果である。