ホリデーシーズンにふさわしい、冬時間の美しい作品です。

 

『エル・スール』(1982)
監督 ビクトル・エリセ
共演 オメロ・アントヌッティ、ソンソレス・アラングーレン、オーロール・クレマン
撮影 ホセ・ルイス・アルカイネ

【あらすじ】
1957年、秋。ある朝、少女エストレリャは目覚めると、枕の下に父アグスティンの振り子を見つける。
エストレリャは父が死んだことを悟る。
彼女は回想する。
内戦下のスペイン、<南>の町から<北>の地へと引っ越す家族。
8歳のエストレリャが過ごした“かもめの家”での暮らしが語られる…。

 

スペインの映画作家ビクトル・エリセの長編第2作です。
(第1作は、『ミツバチのささやき』です)

この映画は、不幸や過去に口を閉ざす映画です。
スペイン内戦が、主人公の父へ何かを影響を与えているのですが、それは語られることはありません。
主人公の母は、内戦の報復人事で、教職を追われたという設定ですが、それが語られるだけで、詳しい情報はありません。


そのように登場人物たちは、口を閉ざしていますが、映像は驚くほど能弁です。

例えば、「かもめの家」の前に広がる、長い並木道。
そこを、父と娘がバイクや自転車でどこかへ向かっていきます。
その魅力的な広がり。

父がダウジングをする、岬の風景。
娘が、コインを数えて、井戸までの距離をはかるところ。

父が通っている古い映画館・・・
そのファサードの味わいのある佇まい。














そうした細部が、アートシネマのように気取った映像美を誇っていないところが重要です。

そうではなく、そうした細部が、登場人物たちの複雑な心を語っているのです。
登場人物たちの、ざらついた心やトラウマを、セリフに頼ることなく、この映画はひたすらに表現しているのです。


多用されるクローズアップも、同様です。

この映画では、クローズアップは、登場人物たちの心の繊細なひだを捉えるものとしてあります。
テレビドラマのクローズアップは、「はい、ここで悲しさで泣いています」と言わんばかりに、幼稚で下品なクローズアップばかりですが、そうしたものと無縁なのは言うまでもありません。

レンブラントやベラスケスのような、生々しいほどの深い黒の背景に浮かび上がる娘イシアル・ボジャインのショットは、尽きせぬ細部に満ち満ちています。












女優たちも素晴らしいです。

女優役で登場するオーロール・クレマンは、クラシックなモノクロ映画で、男に殺される役を演じます。
ブロンドの髪を櫛でとかしている姿のアップは、バロック風ではなく、ノスタルジックな郷愁を感じさせます。
なお、オーロール・クレマンは、この映画の2年後に、ヴィム・ヴェンダースの『パリ、テキサス』に出演します。




1980年代以降、こうした映画は急速に世界から失われていきます。

 

今年も、美しいクラシック映画と女優たちを紹介して参ります。

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