2月19日のマール・オベロンの生誕113周年を記念して、彼女の代表作品をご紹介しています。
(1911年2月19日生誕 - 1979年11月23日死没)

 

『牧童と貴婦人』(1938) SG
製作 サミュエル・ゴールドウィン
監督 ヘンリー・C・ポッター
共演 ゲーリー・クーパー
撮影 グレッグ・トーランド
原作 レオ・マッケリー他

【あらすじ】        
上院議員の一人娘メリーは生来のお転婆娘。
ある日別荘のあるフロリダにやって来たメリーと女中2人は、西部から巡業に来ていたロデオ・ショーを見物に行きそこで、3人の牧童と知り合いになる。
そのうちの一人、長身で無口なストレッチに目をつけたメリーは別荘に3人を招待して宴会を開いた。
メリーはその席からストレッチを連れ出して、すっかり彼をその気にさせるのだが・・・。



マール・オベロンが『嵐が丘』(1939)でブレイクする直前のサミュエル・ゴールドウィン・プロでの作品です。


サミュエル・ゴールドウィン・プロの作品は牧歌的なものが多く、この作品はゲーリー・クーパーが主演ということもあって、さらに牧歌的なトーンが強いです。
ストーリーもお約束の、身分の違う家柄の男女が、その違いを押し切って結ばれるという、真の驚きのないものです。

しかしながら、1930年代のハリウッドの奇跡とは、そうした凡庸さなど感じさせず、初めてこの物語を知ったかのような感動を与えてくれる点にあります。


この映画の最も素晴らしいシーンは、ゲーリー・クーパーとマール・オベロンとのキスシーンです。

テキサスへ行く夜の船内で、2人が愛を確認し合うとき、ゲーリー・クーパーはマール・オベロンにこの船中で何度目かの接吻をしながら、灯のスイッチを落とし、2人は夜闇に包まれます。


しかし、接吻のあとマール・オベロンはそのスイッチを上げます。
そこにはセリフはないのですが、それはあたかも、恋の先行きにふと不安を抱いたかのようです。

 

ゲーリー・クーパーは、その反応に戸惑ったかのように、デッキにつながる扉を開け、そうするしかないかのように、霧煙る夜の海の方を眺めます。
2人は、再び視線を合わせます。

 

マール・オベロンが、スイッチを下ろすと、月光あるいは船のデッキの照明のせいか、夜闇に半ば光が差し込みます。
 

キャメラが寄り、見つめあい再度接吻しようとする2人を、この上なく美しいシルエットで浮かびあがらせます。
その美しさたるや、ハリウッド映画史でも屈指のものかもしれません。

そして、ゲーリー・クーパーは「船長を探そう。そして結婚するんだ。」と言い、溶暗します。



















なぜ、マール・オベロンがスイッチを上げたり、下ろしたりしたのでしょうか。

 

それは、ゲーリー・クーパーに嫌われるのではないかという不安があったからでしょう。

 

このシーンの直前に、マール・オベロンはその直前で「私をよく知れば、あなたは嫌いになるかも。でも、誰よりもいっしょにいたいの。」と口にしています。
 

マール・オベロンは、自らの出自を隠すことで、ゲーリー・クーパーと出会ったわけですが、いまも、その出自を告白することができないでいて、実直なゲーリー・クーパーにそれを伝えることで、関係が壊れることを深く恐れていることを、このセリフは示しています。

 


スイッチを上げたり下ろしたりするマール・オベロンには、そうした嫌われるかもしれないという不安があったからだと思います。

 

更に、その不安を駆り立てたのは、2人を包む暗闇があまりに甘美だったからではないでしょうか。

霧煙るデッキ近くの船室は、あまりにも美しく、ゲーリー・クーパーとの接吻は、あまりにも優しく、これ以上ないというほどの幸福な瞬間です。

 

それがあまりにも甘美な刹那に思われたからこそ、マール・オベロンの不安が増したのでしょう。

 

このシーンは、映画史上に残る屈指の名シーンだと思う次第です。



この素晴らしい撮影は、『市民ケーン』で知られる、かのグレッグ・トーランド。
思えば、ゲーリー・クーパーの『教授と美女』も、マール・オベロンの『嵐が丘』もグレッグ・トーランドでした。

 

それにしても、ゲーリー・クーパーの上品さは、当時のハリウッドにおいてずば抜けています。
ゲーリー・クーパーはフランク・キャプラの映画(『オペラハット』『群衆』)が有名ですが、それよりも、繊細な接吻シーンがある、ホークスの『教授と美女』やこの作品の方が素晴らしいと思います。


































 

『牧童と貴婦人』で泣いてしまった理由は何か。
たとえば、お嬢様のお部屋だと偽ってカウボーイを三階の自室に招き入れた娘が、テラスに誘い出して男の気を惹きつけようとするとき、遠くに夜の海がのぞめる手すりに身軽に腰かけた牧童が、いきなりポケットからハモニカをとり出し、民謡の一節を吹き始めるのだ。
それは、ほんの一瞬の光景なのだけれど、遥かに拡がり出す海辺がモノクローム画面に艶をおび、それに視線をはせながら男の奏でるハモニカの調べが、あまりに平凡なものなので、何だかとても勿体なく、贅沢すぎる気がしてしまったのである。
ほんの一瞬ながらハモニカを口に持ってゆく牧童が若き日のゲーリー・クーパーだといえば、その贅沢さの意味がいささかなりともわかっていただけようか。
絵に描いたような純粋無垢を体現している無駄と思えるほどのその長身ぶりは、いま見ると、ほとんどパロディの域にさえ達しているのだが、それにさえ寡黙に耐えるクーパーのどこまでも愚鈍な真剣さは、誰だって感動するだろう。
(蓮實重彦)


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