本日7月1日は、シルヴィア・シドニーの没後25周年です。
それを記念して、彼女の作品を紹介しています。
(1910年8月8日生誕 - 1999年7月1日死没)
『暗黒街の弾痕』(1937)
監督 フリッツ・ラング
共演 ヘンリー・フォンダ
撮影 レオン・シャムロイ
製作 ウォルター・ウェンジャー(Walter Wanger Pro)
【あらすじ】
職を失い、新婚の妻ジーンと路頭に迷っていた前科者エディは、強盗の濡れ衣を着せられ死刑の宣告を受ける。
脱獄を図った彼に冤罪が判明した知らせが来るが、罠と思った彼は味方だった神父を殺して逃げ、ジーンと2人、逃避行を始める…
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シルヴィア・シドニー+フリッツ・ラング3部作のうちで、圧倒的なのはこの作品です。
ストーリーは『俺たちに明日はない』のボニー&クライドそのままです。
いかにも映画らしい、盗んだ車を乗り継ぐ男女の逃避行です。
※『俺たちに明日はない』(1967)に先立つこと、40年前の作品です。
じっさいの、ボニーとクライドの事件は1934年で、この作品の3年前です。
そのようなありふれたストーリーが、信じがたく美しく、感涙を誘う至高の傑作です。
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まず、『激怒』の流れをひいて、小市民たちの狡さに対する描写が凄まじいです。
シルヴィア・シドニーとヘンリー・フォンダを、新婚旅行先の部屋から追い出すホテルの夫婦や、彼らにガソリンを強奪されただけなのに、警察にお金も盗られたと虚偽の報告をするガソリンスタンドの店員たち。
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更に素晴らしいのは、撮影の技巧です。
凶悪犯に仕立て上げられたヘンリー・フォンダを、取り囲む鉄格子の影の幾何学な広がり。
あるいは、ヘンリー・フォンダが、医師を人質にして脱獄するときの夜の霧の不気味さ。
撮影監督はレオン・シャムロイ。かの、1963年の『クレオパトラ』の撮影をしている名匠です。
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むろん、真に圧倒的なのは、シルヴィア・シドニーの美しさです。
「まごころ女優」として、『激怒』『真人間』同様に、一途な思いを持ったヒロインとしての美しさがいかんなく発揮されています。
生まれたばかりの赤ん坊を抱いて、親族の待つモーテルの部屋へ入ったときの彼女の姿は、こんなにも絵になる女優はいるかと思うほどです。
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それは、彼女の生来の上品さや繊細な顔立ちによるところもあるのですが、フリッツ・ラングの演出とのケミストリーの完璧さによるでしょう。
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蓮實重彦は、ここでのシルヴィア・シドニーについては、フリッツ・ラングの映画の中の突出した1点として挙げ、フリッツ・ラング論の中で「結晶する球体 --- シルヴィア・シドニーのために」という一節を割いているほどです。
そこでは、シルヴィア・シドニーという丸顔の造形と、四角形の空間の造形との対比において、感動的だとしています。(蓮實重彦の映画批評の最も重要な論文の1つです)以下に引用しておきます:
この作品のあらゆる要素は、実はシルヴィア・シドニーという女優の顔に集中しているのだ。(...)
弁護士の秘書であった女が、逆に法律で追われる身に転落したというこの変容ぶりがすさまじい。
そしてこの変容こそが、ラング的犠牲者の特権的な身振りにほかならぬのだ。
しかし逃亡さきの山の中で出産し、その子を姉にあずけてまで夫に従う女の表情は、馬鈴薯の醜い球体性に閉じこもって収縮を耐えぬく不運な存在というより、より勝気で、より健気な仕草で不運をはねのけようとする者の、奇妙に艶を帯びた硬質な丸さへと凝縮してゆく。
そのありさまは、箱型の四角な自動車内の空間との対比において、きわめて感動的である。(...)
(自動車は)シルヴィア・シドニーの存在に、貴金属の結晶のような硬さと輝きとを与える主題的機能を帯びているのだ。
見るものは、この丸顔の女の悲劇的な冒険譚に憐憫の情を催しはしない。
高貴で貴重な宝石の塊を前にしたように、その孤独な光に目を奪われるばかりだ。
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