来る6月17日は原節子の生誕104周年です。
(1920年6月17日生誕 - 2015年9月5日死去)
それを記念して原節子の作品を紹介します。

 

『山の音』(1954)
監督 成瀬巳喜男
撮影 玉井正夫
共演 上原謙、山村聡、長岡輝子、杉葉子、中北千枝子

【あらすじ】
信吾は息子夫婦と同居しているが、息子には愛人がいて、妻を省みようとしない。
やさしい嫁を不憫に思う義父は、夫婦の関係を何とか修復しようと誠意を尽くすが、やがて義父は嫁から夫と別れると打ち明けられる・・・

 

成瀬巳喜男が演出するこの映画では、原節子と上原謙とのぎすぎすとした夫婦関係を描くために、原節子の視線が大変効果的に用いられます。

 

くどくどと例を挙げることを避け、以下にスクリーンショットを並べましたので、ご覧いただければと思います。

 





















この映画では、照明が極めて繊細に行われています。

原節子の心の震えが、彼女の顔の美しい陰翳によって表現されているのです。

暴風雨の夜(これこそが山の音です)に停電となり、ろうそくの灯で原節子が映し出されるシーン。
その素晴らしさ。

(これはどうやって撮影したのでしょうか。ろうそくの光では光量が足りないはず)



また、寝床につく際に、窓を揺らす風の音が気になり、寝床から半身を上げた原節子の、上品で細やかな
美しさ。

 








そうした光の美しさは、この作品においては、原節子と山村聡という嫁と義父という関係を描く際にとりわけ用いられているように思います。

 

この『山の音』での2人の関係は互いにいたわりあうという、一種の恋愛関係のように描かれるのですが、その際には、極めて繊細な光が用いられます。


冒頭の2人が木漏れ日を受けとめながら並んで歩く場面、

早朝の淡い光の中で鼻血を流す原節子を上原謙が介抱する場面、

流れゆく風景の光を背景に2人が横須賀線の座席に並んで腰をおろしている場面などがそれにあたります。









早朝の淡い光の中で鼻血を流す原節子を上原謙が介抱する場面について:

 

クローズアップでとらえられた二人の表情は、瞬時の非日常性を招き寄せるにふさわしい徴妙な翳りにつつまれている。
彼らの存在が父親と義理の嫁という関係を超え、単なる男と女として画面に生なましく露呈されるのはそのためである。
抱擁を擬するかのように床に崩れおちる二人の背後に低い抒情的な音楽を響かせる成瀬巳喜男は、これをまぎれもなくラヴ・シーンとして演出している。

(蓮實重彦)

 

横須賀線の座席に並んで腰をおろしている場面について:

 

ガラスの向こうを何の変哲もない風景が流れてゆく車窓近くに位置するとき、成瀬巳喜男における男と女は、それだけで世間から孤立する術を心得ているかのようにみえる。
彼ら自身が動いているわけではないのに、この疾走する車中の状況は、並んで歩く男女の背中を流れてゆく木漏れ日の陰影に
はぼ等しい視覚的な効果を画面に導入することになるからである。
事実、あたりに多くの人影が認められるにもかかわらず、そのとき二人は無意識のうちに何やら共犯者的な状況を享受しあうことになるだろう。
こうした場面を見れば、『山の音』の監督が、いわゆる「庶民的」な生活風景の描写にもまして、人物を鉄道に乗せる場面の演出にことのほか秀でていることを誰もが認めざるをえないはずだ。

(蓮實重彦)

 

そして、ラストシーンについて:
 

立ち並ぶ樹木の影が長く地面にのび、そのあいまをぬうようにして並んであるく男女が、ときおり振り返っては相手の表情をうかがいあう。
二人は、交互に鈍い逆光を受けとめて微妙な表情におさまるのだが、それを生なましく画面に定着させるために動員されているのは、映画的にいって、ごく単純な技法ばかりである。
それでいて、そこに実現されているのは、驚くほど豊かな世界の拡がりなのだ。
あたりにはいくつもの人影が散在していながら、ここでの男と女は、彼らだけの孤立ぶりを享受している。
肩を並べて歩調をあわせる山村聰と原節子とは、こうして、映画が映画と出会ったときだけに姿をみせるはて知れぬ拡がりへと向けてゆっくり踏み込んでゆくかのようだ。

(蓮實重彦)

 

それにしても、これほどまでに素晴らしい映画が敗戦後10年しか経っていない日本で量産されていることに驚きます。
日本映画と言えば、黒澤明ばかりが人々の口の端に上りますが、実は、最も素晴らしいのは、小津・溝口・成瀬といった、女優たちの繊細な輝きをフィルムに収めてきた監督たちであるように思います。

 

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