映画『地下鉄のザジ』基本情報

1960年/フランス/93分/カラー

監督:ルイ・マル

出演:カトリーヌ・ドモンジョ、フィリップ・ノワレ、カルラ・マルリエ ほか

 

 

 

『地下鉄のザジ』 【6-5】

 

 

 本国イタリアで造られたフィアット1100のフランス版が、“シムカ 8”。「1100」と総称されるフィアット1100は、1930年代から1960年代まで長きに亘って製造された小型乗用車のシリーズ。1953年からはモノコック・ボディが採用され、エンジンも1000ccクラスと1200ccクラスがあり、ボディのバリエーションも、サルーン、クーペ、またはカブリオレがあり、加えて様々なカロッツェリア製造のデザインが存在する。

 

 本編に登場するのは、“シムカ 8 スポール”のカブリオレ。曲線を多用し、小振りでまとまったボディ。正面から見るとVの字を描くボンネット。台形のフロント・グリルはかなり大き目にとられ、ただの直線ではなく、ラインに少し変化が加えられている。その5本の横桟(厳密には1本の横桟は、更に2本で成り立っている)の、中央部分だけ天地幅を広く取ったアクセント等、小型車ながら、なかなか押し出しの強い顔立ち。だが決して下品にはならない。ヘッドライトは正円に下部だけ楕円を組み合わせている。フロント・シールドは、まだ分割式だ。1950年式前後で、排気量は1221ccと思われる。が、詳しい資料が手元にないので、定かではない。カブリオレではなく“スポール クーペ(若しくは単に“スポール”)”の方が、ルーフの処理がかっこよく、かたまり感としてより良いと、個人的には感じている。

 

 全編、シニカルな笑いがちりばめられ、パリが戦場になった、さきの戦争の記憶も不意に顔を覗かせる。もし今の日本で状態の良い個体があったなら、かなりの値がつくであろう“シムカ 8 スポール カブリオレ”も、ルイ・マル監督のスラップスティック・コメディの魔の手から逃れることはとうてい叶わず、本編ではさんざんな扱いを受ける。お金だけはある、上流階級の年増女(※本編の台詞ママ)ムアック男爵未亡人の所有車なので、餌食になるのは避けられない。カラーリングもすごいが、途中からボディはボコボコにされ、果てはボディがシャシーから外れて・・・という、とことんコケにされる役回り(?)だ。シムカ・ファンにはショッキングだが、ここまでやってくれれば、ある意味、本編で重責を担い、見事に全うしていると言ってもいい。

 

“続く”