映画『男と女 人生最良の日々』基本情報

2019年/フランス映画/90分/カラー・モノクロ

監督:クロード・ルルーシュ

出演:アヌーク・エーメ、ジャン=ルイ・トランティニャン、モニカ・ベルッチ ほか

 

 

 

『男と女 人生最良の日々』 【5-3】

 

 

 この、アンヌの店の前に最初から停まっているのが、シトロエンの「2CV」。そう、アンヌの愛車だ。ルノーの現代のピックアップトラックに、アルピーヌの新型A110、そしてシトロエンの2CVが路上に停まっている光景は、自動車大国フランスの、懐の深さを感じさせる。

 

 第二次世界大戦の前、1934年に発表された“トラクシオン・アヴァン”はシトロエンを象徴する画期的な1台だったが、この開発・製造が経営危機を招き、アンドレ・シトロエン株式会社は破綻する。フランス政府の仲介で経営権はタイヤ・メーカーのミシュランの手に渡り、創業者のアンドレ・シトロエンは会社を追われ、病に倒れてこの世を去ってしまう。しかし2代目社長のピエール・ミシュランは、アンドレ・シトロエンの良き理解者で、トラクシオン・アヴァンの生産はアンドレ亡き後も続行された───と、なぜか話は時代をかなり遡るところから始まる。

 

 ピエール・ミシュランの下で副社長を務めていたピエール・ブーランジェが休暇でフランスの農村を訪れていた時、人々が未だに荷物の運搬を手押し車に頼っている光景を見て、彼は衝撃を受ける。彼らのために、ミニマム・トランスポーターを造らなければならない、という義務感に駆られたのだ。

 

 休暇から戻って来たブーランジェが考えたコンセプトは、「2人の大人と50kgのジャガイモを積んで、時速60キロの速度が出せて、燃費はリッター20キロ。農道のような未舗装路でも、籠に積んだ卵が割れない快適な乗り心地で、簡潔な構造と操作系を持つクルマ」。価格はもちろん、安く抑える。これが1935年のことだった。

 

“続く”